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33 【福田の記憶】家族
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side 福田涼太
───小学3年の時、おふくろと親父が離婚した
きっかけは、親父が大きな仕事を失敗させてしまったことによるリストラだ。リストラされてすぐの頃は、一日でも早く就職しようと張り切っていた親父。
ところが、そう簡単には行かなかったのかそのうち昼間から家で酒を飲み散らかしては、おふくろにストレスをぶつけるようになっていった。
親父の代わりに働いていたおふくろが仕事から帰ると、たまにだった"それ"を毎日『お前が悪い』と物を投げつけたり、それより酷い事もあった。そんな時おふくろは泣きながら謝罪を繰り返すばかりで反撃や通報には至らなかった
『お父さんとは別れないの?』
まだ小学生だった俺になにか出来るわけではなかったけど、優しかった親父が変わってしまったことは悲しくて子供なり怖くて、この日常が"ふつう"ではないことくらい理解していた。
おふくろは何もしていないのに理不尽な扱いを受けているのも腹立たしかったから、心配で何度か同じ質問をした
『お母さんはね。お父さんが大好きなの。もちろん諒ちゃんも大好きよ。それにね。お父さんは悪くないの』
悲しそうに微笑みながら同じようなことをいつもいつも…辛いはずなのに。苦しいはずなのに。そんな顔をしながらも親父を庇い続けたおくろ。
ところが、それが数ヶ月続いたのち、親父はあっさりとおふくろを捨てやがった
『じゃあな』
その夜、何も映さないような瞳を俺たちに向けながらテーブルの上に紙を一枚、今ならわかる。あれは離婚届だったんだろうな。
もう帰っては来ないだろう親父の背中を見つめるながら静かにひと粒の涙を流し、ハッとしたようにそれを隠してから俺に向き直って、笑った。
『諒ちゃん、大丈夫よ。お母さん頑張るからね』
本当は泣き出したいのなんて、隠せてなんかない
いっそ泣いてくれたら何か、言えただろうに
包み隠すように微笑みながら頭を撫でてくれた
俺はおふくろの優しさ、強さか、それを目の当たりにして、なぜだか泣きたくなった。
…きっと、あの時のおふくろを俺は一生忘れないだろう
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