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ビギナー13
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(神田語り)
うちの2倍はありそうな浴室の窓からは綺麗な夜景を見ることができた。
夜景を眺めるためにこの部屋へ住むのだろうかと考えながら、宝石みたいにキラキラしている静かな明かりをしばらく眺めていた。
こんなの、毎日見たら飽きちゃうよ。
でも、癒されるなぁ……自分が違う世界にいるみたいに思えてくる。
お風呂上がりにりんごジュースを貰って飲んでいると、入れ替わりで春馬先生も入浴しに行った。だぼだぼのスウェットが俺の幼さを表しているようで面白くない。裾を折ってみるが、益々強調されているようで恥ずかしくて止めた。
早く大人になりたいと痛感する。
さっき寄ったコンビニでもスナック菓子やチョコレートをカゴに入れる俺とは対照的に、春馬先生は水とお酒を選んでいた。しかも甘くないやつで、下着も知らない間に買ってくれていた。
口数は多くないけど、さり気なくやってくれることが多い。そういう所が女の人にモテるんだろう。大人の余裕を感じた。
机に置いてある袋からポテトチップスを取り出し、ぽりぽりとかじりながら、夜景を眺めていた。さっきから猛烈な眠気に襲われていて、意識は半分夢の中にあるみたいだ。うと、うとと船を漕ぐみたいに頭が下がる。
「そろそろ寝たほうがよくないか。もう11事だ。取り敢えず聞くけど、客間で1人で寝るか、寝室で俺と一緒に寝るか、どちらにする?
何かあったら起こしに来てくれてもいいし、1度寝たら起きない体質なら、1人で寝ても構わないよ。俺はもう少し起きてる。好きな方を選んでいいよ。」
春馬先生が鞄から書類を出して、仕事らしきものを始めた。俺は一緒に寝てくれるものとばかり思っていたので、突き離されてショボンとなる。それでも家に1人きりでいるよりかはよっぽどマシだ。
1度寝たら朝まで覚めないタイプだから、客室を借りて早く寝よう。家の中に先生がいるだけでも全然違う。
なんとも言えない寂しさが広がったけど、一緒にいたいって我儘言ったのは俺だ。春馬先生の生活を邪魔しちゃいけない。
家に入れてくれただけで、ありがたい。
「客室にする。おやすみなさい。」
「ああ……何かあったらすぐ起こして。」
「はい。また明日ね。春馬先生、今日はありがとう。あの、俺……」
「もういいから、早く寝なさい。」
手をヒラヒラと振られてあっけないおやすみの挨拶となった。
トイレに行き、客室と聞いていた部屋のベッドに入る。疲れた身体が布団の中で柔らかく伸びていきそうで、いつの間にか寝ていた。
夢を見た。
長くて薄暗いトンネルを延々と歩いている。出口は気配すら無くて、冷たい道にヒタヒタと素足の音が響いていた。
ばあちゃんの声が聞こえた気がしたけれど、姿は無い。父さんも、春馬先生も、葵さんも、熊谷先生も誰もいない。俺しかいない。
途中で走っても何も変わらなくて、息がつまる暗さと、纏わりつく湿気に気が狂いそうになった。
誰か、誰か…………助けて。
もがきながら声にならない叫びを連呼すると、突然腕を引っ張られた。
「紘斗、紘斗…………おいっ、紘斗っ。」
春馬先生の声が聞こえて、意識が現実へと戻った。
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