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嫉妬と羨望10
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(葵語り)
腹わたが煮えくり返るとはこのことだと思った。先生が俺を迎えに来てくれたと一瞬でも喜んだ自分を恥ずかしく思った。
すごく嬉しかったのに、谷底へ突き落とされた気分だった。
先生が連れていた生徒さんは、先生のシャツの裾を引っ張って、背中に隠れている。
少し前までその場所には俺がいたのに、何なんだよ。俺は用無しか。しかも同じように生徒に手を出していることが、更に俺の感情を逆撫でた。
「ねえ、熊谷先生は何しに来たの?未成年をこんな時間まで連れ回して、用がなければ帰りなよ。ガキは帰れって。」
島田が敵意を剥き出しにして、先生に噛み付いた。その勢いに生徒さんが怯えたような表情をして、更に小さくなり先生に寄り添っている。俺の先生に触らないでほしいのに……ぎゅっと堪えるように拳を握った。
「………違うって……言ってもその顔は信じてないよな。はぁ………なんだよ。わかった。今日は帰る。葵の元気な姿を見れたから、また来るよ。次はちゃんと俺の話を聞いてほしい。
おい神田、帰るから離せ。お前はなんなんだよ。大事な用事があるって言っただろうが。早く家に帰れよ。もう。」
「え、あ、待って、熊谷先生っ、置いてかないで。」
足早に去っていく先生と神田君の後ろ姿を島田と並んで見ていた。
今見たことが信じられない。頭の中で処理しきれずに、キャパオーバーで涙が出てくる。視界がゆらゆらとぼやけた。
俺よりあの子がいいとか……?
2人はじゃれている様にしか見えなかった。
「大丈夫だよ。葵君。泣かないで。元々あんな奴と付き合ってたこと自体が悪いんだよ。僕が慰めてあげるからね。神田って奴、微妙に葵君に似てた。酷い奴だな。」
島田が優しく肩を抱いてくれた。
「……うん。島田、ありがと。少し休めば平気だから。店に戻って。俺もすぐ行くから。」
今日はとても混んでいて、 俺たち2人が外したら店は回らなくなってしまう。
側に居たいと言い張る島田を無理やり帰して、地面に座り、夜空を見上げながら後悔していた。
少し冷静になって考えてみる。
何故、あの時ムキになって喧嘩したのだろうか。俺が本気なことを分かってもらいたくて、指輪と鍵を置いて自分の家に帰った。
すぐに迎えに来てくれるだろうと軽い気持ちだったのに、連絡もなかった。
やっと来てくれたと思ったら、全然違ったみたいだ。今度は違う生徒を連れていた。
もう先生とは元に戻れないのかな。
喧嘩なんかしなきゃよかった。
膝を三角にして抱え、小さくなって俯く。
「こんな所で、どうしたの?気分でも悪い?」
「松山さん……」
先生と言い争いをした以来だ。
松山さんは、手に持っていた可愛い包みを俺に差し出した。
「この間のお礼。葵君はマカロンは好きかな?うちの売れ筋ナンバーワンを持ってきたよ。」
そう言って笑う松山さんはなんだか優しかった。
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