アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
青春狂走曲1
-
(葵語り)
大学の後期授業が始まった。学生である俺は、本業の学校へ通う日々が再開する。長い夏休みは終わったのだ。
先生が駆け付けてくれたことにより、京都は大ごとにならずに済んだ。その日の夜、先生から沢山の愛を貰ってあいつの面影は去ったはず……だった。
人生はそんなに上手くいかないらしい。
時が経てば経つほど思い出す機会が増え、その度に俺の中に深い影が落ちていた。後から来るものが亡霊のように俺を苦しめていた。
常にある訳ではなく、発作のように黒いそれはやってきて、息をするのがしんどくなる。
時が経ち、薄れるまで待つしかないのかな。
バイトはそのままcaféRで続けている。caféRには彗さんや、島田や、悠生さんがいる。その方が何かあった時に対応できるからと、先生が話をつけてくれた。
時間は、夜ではなく昼間にしてもらったが、あいつの影に怯えながらも楽しく働いている。勿論、松山は出禁になった。
要は自分との闘いなんだと思う。やっかいなトラウマになりそうだった。
今日も、悶々としながら授業を受け、島田とバイトに行こうと駅裏の路地を歩いていた。
10月に入り肌寒い日が増えた。クローゼットの奥から引っ張り出してきた水色ボーダーの長袖Tシャツは、少しシワがあったけどそのまま着ていた。明日には家に冬物を取りに帰らないといけない。
夕飯はお鍋にしようかな。先生が好きな鱈を入れたサッパリなやつにしよう。
「彗さんってば酷いんだよ。昨日も僕が寝てから帰ってきて、言葉も交わしてないの……僕が作ったご飯も黙って食べるしぃ。それでさぁ……」
さっきから、ひたすら彗さんの愚痴を聞かされている。俺達とは違って完全な同棲は色々と大変らしい。島田は彗さんに振り回されているようだった。元々このカップルは感情を言葉で伝える行為が足りないように思う。
ムクれる島田は見ていて面白いなと感じながら話を耳を傾けていると、caféRの裏口前に人影が見えた。
ほんの一瞬それが松山に見えて、咄嗟に島田の影に隠れるも、人違いだったことに気付く。
「あ、あのう、葵さん……ですよね?俺、この間、熊谷先生と一緒に居た、神田紘斗と申しますっ。今日は相談があって来ました。お願いです。俺の話を聞いてください。」
強引な要望の割には丁寧な口調で、神田君は頭を下げた。
「葵君……また面倒くさそうな奴が来たよ。どうすんの?相手してやるの?たぶん襲ったり京都へは誘ったりしないと思うけど。」
島田が笑いを堪えながら言った。
完全に面白がっている。
「どうしようかな……一応、先生の学校の生徒さんだし、無下に扱えないよ。少しなら聞いてあげてもいいけど。でも、ちょっと面倒くさそうな香りがする……」
島田に囁くように言ったつもりが、神田君にも聞こえてたらしく、笑顔で俺の元にやってきた。
地獄耳……
ニコニコとこちらを見ている。
「バイトだから、少しだけだよ。終わったら速やかに帰ってもらうからね。相談とか苦手だし、解決しないと思うけど、それでも良かったら。」
「はいっ、ありがとうございます。聞いてもらえるだけでいいんです。俺、ぜっんぜん面倒くさくありませんから。」
そう言って神田君は満面の笑顔を見せた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
45 / 161