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夜のドライブ1
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(葵語り)
学園祭シーズンが過ぎ、季節は冬へと移り変わろうとしていた。風が徐々に冷たくなり、マフラーや分厚いジャケットが手放せなくなる。寒がりな俺にとって冬は酷な季節で、いつも必要以上に着込んで凌いでいた。
とある金曜日、caféRでのバイトが終わり帰路に着こうと駅へ向かっていた時だった。気温の割に風はなく、体感気温はずっと温かくて気持ちの良い秋の夕方だ。軽快に歩を進めていると、聞いたことのある声が耳に入ってきた。
「そこの可愛い葵さん、おヒマですか?良かったらドライブ行きませんか?」
「…………」
面倒臭いから、無視してそのまま歩き出す。
声の主は分かっていた。
「ねえ、葵君。明日は休みだし、暇でしょ?僕とドライブしようよ。」
最近免許を取得した島田が、俺を待ち伏せして声を掛けてきたのだ。残念なことに俺のシフトは全て彼の頭に入っており、こうして誘われることも少なくない。
ストーカーと問われれば、間違いなくその部類に入るだろう。caféR用で普段使っている大きめの白いワゴンが近くに停車していた。
「ドライブってどこに行くの?車は勝手に使用して大丈夫なのか。」
別に暇じゃないけど行き先は気になった。
プチ小旅行みたいで、心が少し踊ったのは事実だ。毎日同じことの繰り返しだと、逃避したくなる時もあるのだ。
「ふふふ……海に行こうかと思って。車は使っていいって兄ちゃんに了解を得たから大丈夫。」
「…………海。でも先生にご飯作んないといけないから無理だよ。」
海には少し惹かれた。いいや、かなり惹かれた。俺は海が大好きだからだ。
想像すると鼻の奥から潮の香りがしてしまう位、焦がれていた。追い討ちをかけるように砂の感触と波の音を思い出してしまい、誘惑に負けそうになる。
だけど、今日は俺と先生が付き合って3年目の記念日だ。特別なことをする訳ではないが、2人きりで過ごす約束をしていた。先生はいつも記念日を大切にしてくれる。
「ごめん島田、また誘ってよ。今日だけは無理。先約があるから。」
「先約って熊谷先生でしょ。ちぇ、残念………しょうがないな。折角だから家まで送ってあげるよ。次は絶対に行こう。」
「うん。ありがと。」
遠慮なく島田に甘えて、家まで送ってもらうことにした。車に乗り込むと待っていたように携帯が鳴る。嫌な予感がした。
『葵、ごめん。急な用事が入ったから今日は先に寝てて欲しい。記念日は明日祝おうな。本当にごめん。』
と先生からのメッセージが届き、あまりのタイミングの良さにため息が出た。島田はこういう運を持ってるんだよな。
急な用事って何だろう。先に寝てて欲しいって、帰ってくるのが夜中になるのかな………特別な日に1人で待っているのは寂しい。
恋人が社会人だと、こういうのが辛い。
「あー、先約がなくなったじゃん。海行こうよ。海、海、うーみー。きっと綺麗だよ。」
発進しようとした島田が携帯を覗き込み、慌ててサイドブレーキを入れ直した。
キラキラした目で俺を見てくる。
「………いいよ。行こっか。安全運転でね。お前の運転怖いけど。」
「わーい、わーい。葵君と久しぶりのデートだ。嬉しいなぁ。」
きっと家に帰っても暇で寂しいだけだ。
なんかムカついたので、先生には島田と海へドライブに行くことをメッセージで伝えた。
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