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素晴らしき日常6
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(真理語り)
「では、いってきます。今日は夜もあるから帰りは0時を過ぎるよ。眠たかったら寝てていいから。また後でね。」
「はーい。いってらっしゃーい。」
彗さんがちゅ、と唇に優しいキスをくれた。新婚さんみたいで、お腹の底がむず痒くなって身悶える。こういうのを待ってたんだよ。
もっと欲しくてチューの口で手を広げたら、既に出掛けた後でいなかった……早い……
彗さんが慌てて出勤したのち、僕は静かに支度を始めた。
お気に入りのパーカーにスキニージーンズを合わせて、鞄に筆記用具を入れた。LINEを確認すると、葵君も早めに来て学食で昼ご飯を食べるそうで、待ち合わせ場所を決める。
僕は葵君と授業が同じだから、大学ではずっと一緒で、それは僕にとって有意義な時間だ。
早めに出発しようと、靴を履くために玄関に座ったら、軽い腰痛に襲われた。昔はこんなんじゃ痛くならなかった。僕も柔になったもんだと、含み笑いをする。幸せボケしてるのかも。僕のことを『マリ』なんて呼ぶ奴は周りにはいない。
道を歩きながら過去を振り返っていた。
僕は通称『マリ』で相当荒んだ高校生前半を送っていた。思えばあれが僕の反抗期だったと思う。色んな人とセックスをした。危ないことも痛いプレイも平気でやった。
その中で、1人だけ忘れられない人がいる。その人だけは今だに名前も顔も覚えていた。
『雅さん』だ。
他は街中で見かけても気が付かないが、雅さんだけは特別だった。艶のある黒髪が印象的な、僕史上1番の美人さんだ。ちなみに、2番は葵君。
凄く綺麗な人で、いい匂いがして、優しくて、とにかくセックスが上手かった。実在したのかも定かではないくらい夢みたいな時間は、本当にあったかも怪しい。だけど、貰ったメモ書きは大切に保管してあるから、確かに雅さんは実在したのだと思う。
もう一度……会ってみたいな。
僕、彗さんへの想いが実ったから、会いに行ってもいいよね。
会いたい。雅さんに会いたい。
今は何をしているのだろうか。
「島田、こっちだよー。おはよ。何かいいことあった?にやにやして気持ち悪い……」
学食のいつもの席に、葵君が座って手を振っていた。相変わらずの気だるい雰囲気に酔いそうになる。さては、熊谷先生とセックスしてきたな。ここのカップルは倦怠期を知らないのだろうか、常に葵君から色気がだだ漏れしている。
隣には東雲が座っていた。こいつも高校からの同級生で、見た目は悪くないのに、話すとイマイチ会話が広がらず、色々と残念な奴だ。
僕と葵君が恋人の話をしていると、全く興味がないフリをしているが、実はしっかり聞いている。そして後で僕にこっそり質問してきたりする。
そのくせ自分の恋愛話は一切しない。謎は多いが悪い奴では無い。ラグビーをやってきた身体と彫りの深い顔は女の子にモテそうなのに、一切そんな雰囲気は漂って来ない。
昔からアンバランスで不思議な奴だった。
「おはよ。葵君、首にキスマーク付いてるよ。」
「え、あ、うそ……どこどこ……東雲、付いてる?あー、どうしよ。隠さなきゃ。」
僕が揶揄うと、慌てた葵君が首を気にし出した。
「伊藤……付いてないって。島田もそんな嘘やめろよ。どうせならもっとマシな嘘つけよ。」
一言そう言って、東雲は雑誌に目を落とした。東雲がファッション誌を読んでいるところを初めて見た気がする。珍しいと感じた。とうとう着ているものに気を使おうと思ったのだろうか。いつも同じような服装だから、それなりに衣装映えするのに勿体無いと思っていたのだ。
「東雲は何読んでんの?俺にも見せてよ。」
「何って……普通の雑誌だけど。島田には関係ないだろう。」
「いいじゃん、見せてよ。」
東雲が必死に隠そうとする雑誌の表紙を見ようと捲った際に、裏表紙が目に入った。
それを見た僕は目を疑う。
お洒落な香水のボトルと共に、夢の中にいたあの人が笑っていたのだ。
間違いない。
雅さんだ。
雅さんが香水のモデルをしていた。
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