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──パタン、
菜野先生と未月くんが出て行った後、もう一つ息を吐いた。
流木くんの方を振り返ると普段と変わらない無表情な顔。
(それなのに、様になってるのは顔が整ってるからね)
プラス容姿もモデル並み。四月に行った身体測定で身長は百八十超えていたし、細身に見えて筋肉はしっかり付いてる。性格は冷めてるけど、そこがまたモテる要素の一因。しかもフリーときたら狙う子は学年問わず多い。
(先生の中でも人気は高いのよね。性格を除けば私もあり……まぁ、タチ目線で、だけど)
「あの子たちでしょ。お昼休みの時の怪我も、あなたが濡れてる原因も」
〈あの子たち〉、は流木くんを好きな子たちの事。まだ十六や十七の高校生でも恋愛絡みの嫉妬や妬みは怖い。青い青春なんて名ばかりね、ほんと。
今の未月くんが、恰好の的ってところかしら。ただ気になるのが……。
「付き合ってる、訳じゃないわよね?」
かと言ってセフレにも見えない。未月くん、可愛い顔してるけどそう言うことは率先してしなさそうだし、何より初心ね。絶対。
それに、仲良いって言われた時の反論した姿を思い出すと、好意があって照れてると言うよりかは嫌悪感の方が強かった。
(何があったかは分からないけど、未月くんはきっと流木くんが嫌い)
でも、この子は──。
「知るかよ」
「あら、否定しないの?」
ガタッと菜野先生が座っていた椅子に腰掛けると荒々しく息を吐いた。
その見たことない姿が面白くて笑みが溢れる。いつも余裕のくせに、やっぱりまだ子供ね。
「関係ねぇだろ。煩いから黙って」
「……誰に向かって口聞いてるのかしら」
「っ、」
濡れてる黒髪から見えた耳を軽く抓ると腕を振り上げてきた。
「なにす「その赤色のピアス、未月くんもしてたわね」」
髪の毛の隙間から見えたピアスにそう言うと顔を逸らされたけれど。
お揃いのものを付けるなんて、意外と独占欲強いのね。入学した時から来る者拒まずで体だけの関係しか持ってなかったのに。実際には中学校の時から他人に性欲処理以外では興味なかったらしいけど(立谷くん談よ)。
まさかね、と思いながらも一つの質問を投げかけてみる。
「好きなの?」
「………………………………」
救急箱を棚から取り出して、流木くんの方に椅子を向かせてから座る。
単刀直入に聞いてもその表情は照れる様子も慌てる様子もなく、私を見てくる。
(食べちゃいた……じゃなくて!)
その顔に無意識に思ってしまった感情に私の方が慌てて蓋をした。
「ごめんなさい。冗談よ、まさか流木くんが「──好き」……え?」
一言。たった一言口にした流木くんの表情は、少しだけ頬が赤くなっていて。それに呆気にとられていると、ガタッと立ち上がる音がした。
「バラしたら殺すから」
最後に物騒な言葉を口にして、保健室を出て行く。パタンとドアが閉まる音にようやくはっとした。
「え、ガチなの?」
閉まったドアを見ながら呟いたと同時に、未月くんの身が不安になった。
あ、手当てしてないわ……。
────────────────────────
「なんかすいません、先生……」
教室に寄って、鞄を持ってから寮までの桜並木を歩く。
五月くらいまで満開だった桜は今は緑がキレイな葉桜になっている。
もうみんな帰ったあとだから静か。風で葉がこすれる音と、鳥の鳴き声に俺と先生の歩く音しか聞こえない。
「気にしないで下さい。ちょうど僕も寮に戻る所でしたから」
そう言って優しい笑みを向けてくれる先生に、申し訳なさと緊張していた気持ちが緩む。
あんまり話したこと、って言うか保健の先生にお世話になることって今までなかったけど、菜野先生はもろ保健の先生って感じで。多分、まだ三十代前半くらいなのに一緒にいて安心感がある。
(千倉先生や担任の木崎先生も話しやすいけど、またそれとは違った……)
「大丈夫ですか?」
「え……」
寮の入り口が見えてきた所で、隣を歩いていた菜野先生が立ち止まって聞いてくる。
「あっ、まだ少し痛むけど大丈夫です」
昼間怪我した足首のことかなと思って答えたら、それもありますが……と付け加えて。
「気持ちの方は、辛くないですか?」
「っ……」
「えっと、急にすいません! ただ、元気なさそうに見えたので……。無理にとは言いませんから、もし何かあったらいつでも話して下さいね」
ドキッとした。そんな俺に先生は慌てて謝って、また歩き始める。一歩二歩進んだところで今度は俺から声を掛けていた。
「あのっ、先生……!」
なんて言えばいいか、やっぱりわからない。頭の中も整理はできてないし。だけど、それでも誰かに言いたかったのかもしれない。
「未月くん……って、え!?」
「ふ、ぅっ……すいま、せん……」
振り返ってきた先生に今度は俺が謝る。
言葉より先に大量の涙が溢れてきて、どうすることもできずに俯いて泣いてしまう。
今まで、ずっと我慢していたものが爆発したかのように。
「う、ぅう……っ、おれ、あんな奴……嫌いなのにっ」
「……未月くん、」
(なんで、なんで──)
頭の中で嫌いと疑問の言葉が並ぶ。
手の甲で涙を拭いながら、何も言わずにそっと抱き締めてくれる菜野先生。その温かい胸で、バカみたいに泣いてしまった。
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