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もっと悪い現実
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「ふぅ……」
あの後、大泣きした俺を菜野先生は寮まで送り届けてくれた。
頭が冷静になってくるとなんであんなに泣いてしまったのかと言う恥ずかしさが襲ってくる。
でも泣いたおかげか気持ちはスッキリした。菜野先生も何も言わずに抱き締めてくれてたし。ほんと、優しい。
(結局、泣いただけで何も言えなかったんだけど……。嫌いとしか)
「それにしても、誰もいなくてよかった……」
あんな姿、友達にも見られたくない。
ギシリとベッドに腰掛けて、セーターのポッケから携帯を取り出すとラインがきていた。
「緋結からだ」
なんだろ。
そう言えばまだ帰って来てないことに気付く。確か、俺より先に帰ったのに。
(あ、もしかして……)
何となく予想がつきながらラインを開くな。
『今日、眞尋先輩のところ寄ってから帰るね!』の文面と一緒に送られてきたのはごめんねスタンプだった。
やっぱり。昨日もそうだったし、一緒にいたいんだろうな……好きなんだから当たり前か。学年も違うから昼休みとか、一緒に帰ることくらいしか学校で接点ないし。
「はぁ……」
相手が伊咲先輩と言う優しい人なら、一緒にいたいと思うよ。
(……アイツも、少しくらい優しい心を持った方がいいと思う。絶対)
「……………………………………」
……でも、一応助けては、くれた。昼休みの時もわざわざ保健室連れて行ってくれたし。さっきだって……。
(いや、でも見返りがデカ過ぎなんだよ! それを求めてこなかったら俺だって……)
仲良くできたかもしれないのに。まぁ、それはそれでアイツのファンに殺されそうなんだけどさ。
なんて考えながら、血を流してたアイツの姿を思い出す。何階から落とされたか分からないけど、結構いい音してたな。しかも頭。もしかして、脳内出血なんてしてたら……とか余計な考えが頭を巡る。
「……あー、もう!」
髪の毛をぐしゃぐしゃと両手で掻き混ぜながら立ち上がる。悶々と勝手に考えてしまう自分の脳が憎い。しかも悪い方向にばっか。
とりあえず、緋結に返信してから俺は部屋を出た。
(あぁ、さっき嫌いって大泣きしたばっかなのに……)
今俺がいるのは二階にある二年の寮部屋。……アイツの、流木の部屋の前。
(怪我、大丈夫か確認するだけだから! それができたら帰る!)
部屋を出た時からずっと心の中で繰り返し自分に言い聞かせる。幸い、周りには誰もいなくてここに来るまでも誰にも会わなかった。
(きっと、今頃風呂か食堂に行ってる時間だから)
もう一度周りに誰もいないことを確認して、一つ深い深呼吸をする。
「……よし!」
邪険にされたら即帰ろうと思って、コンコンとドアを叩いた。
だけど、
「……………………………………」
……シ──────ン…………。
何の反応もなくて、もう一度ノックする。それでも物音一つしない。携帯を取り出して時間を見ると十八時過ぎで。もう帰っててもいいはずなのに。
(まだ手当てしてるとか?)
そう思ったら尚更不安が襲ってきた。だけど、再度強くノックしてもやっぱり反応はなかった。
「……帰ろ」
いないならもう仕方ない。……若干もやもやが残るけど、明日緋結に様子聞いてみよ。
(幼馴染だし、何かしら聞いてるはず)
そう思って流木の部屋に背を向けた時、何か話し声が聞こえてきた。角を曲がる所だったから姿はまだ見えない。
(独り言、ではないよな!?)
近付いてくる二人分の声に焦ってしまう。だって、もし流木のファンだったらマジで殺される! 関係疑われてるのに部屋の前にいるなんて見つかった時にはっ。
しかし、反対側に逃げようにも突き当りで。一年の寮に戻るには声が聞こえてくる方にある階段からしか戻れない。
「や、ヤバい……!」
絶対絶命過ぎる!!
こうなったら最後の賭け……咄嗟に思いついた俺は、流木の部屋のドアノブに手を掛けた。
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