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夏の恒例行事
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「悠季、いつまで寝てるの!」
「んんー……」
バンッと勢いよく開いた部屋のドアと母さんの怒鳴り声に目が覚めた。
「まだ十一時じゃん……」
枕元に置いてあった携帯を見ると、十一の数字が霞む視界の中見えた。
(せっかくアイツからも解放されて待ちに待った夏休みなのに……)
もう少し寝ようと思って目を閉じたら体に掛けていたタオルケットを剥ぎ取られた。
「今日買い物付き合ってねって昨日言ったでしょ! ほら、準備して!」
「ぇえー……」
「下で待ってるから。早くしなさいよ」
それだけ言い残して母さんは部屋を出ていく。階段を下りていく足音に、まだダルい体を渋々起き上がらせた。
「はぁ……」
アイツの次は母さんかよ……。もう、ゆっくりしたいのに。
夏休みなんてどこも出掛けず家でゴロゴロしてたい(冷房効いた部屋で)。
じいちゃんチ行ったり旅行は別だけどさ……。それ以外は家にいたい。
だけど、それは一階から聞こえてきた母さんの声にまた邪魔されてしまう。
「……今行くって、」
それだけ返してベッドから立ち上がろうとしたら携帯の画面にラインの通知が来ていた。
(あ、緋結だ)
そう言えば昨日、補習終わったって連絡したんだった。
着替える前にラインを開くと良かったねのスタンプと一緒に文章も送られていた。
「明後日、花火大会あるから一緒に行かない……?」
(……花火大会。昨日の夜ラインの返事が来てるから、明後日ってことは明日?)
「………………………………」
なんだろう。なんか嫌な予感しかしない!
花火大会と言うイベント事だし、きっと伊咲先輩も一緒なはず。そうなると俺、また邪魔者じゃん……。
それだけならまだいいけど……。さすがにアイツはいないよな? 多分まだ寮だろうし、家に帰る感じなかったし。
色々考えた所で結局行くから、いいよとスタンプ付きで返事をする。
(まぁ、一人でも花火見るのは楽しみ。屋台もあるし)
緋結のラインを見返していると、もう一文送られていたことに気付く。
〈浴衣できてね♡♡ 〉
「……え、浴衣?」
────────────────────────
「似合うじゃない」
「お似合いですよ。可愛くて」
「あ、ありがとうございます……」
(……可愛い)
喜んでもいい単語なのか戸惑いながら、目の前でニコニコと笑う店員さんに一応お礼を口にする。
母さんに連れられて来た百貨店の浴衣売り場。
花火大会のことを母さんに話したら、小さい頃の浴衣はあったけどサイズが合うわけなく。せっかくだからと買うことになった。んだけど……、
上品な年配の店員さんが勧めてくるのは女子でも着れるような柄や色ばっかりで。
(男用……だよな?)
なんて思いながら何着目かに着せられた水色ベースの、裾に金魚が泳いでる浴衣を見る。
「これにする?」
「え、」
母さんにそう聞かれて顔を上げると、笑顔の店員さんと目が合った。
(う……こ、断れない!)
「……うん」
俺が頷くと、今日一番の店員さんの笑顔が輝いた。
「はぁ……」
着替え終わって、母さんがお会計をしてる間浴衣売り場を見て回る。
(……ほんとは、こういうのが良かったな)
マネキンが着てる無地の黒い浴衣。帯は生地より濃い黒で、シンプルだけど一色に統一された感じがカッコいい。
(でもMサイズあんのかな)
俺より背の高いマネキンが着ているサイズのタグを見るとLで。その後ろにハンガーで掛かっている在庫もLやLLだけだった。
(もはやサイズすらない……)
「悠季、行くわよ」
「あ、うん!」
ダブルショックを受けながら、慌てて母さんの後ろ姿を追いかけた。
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