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夏休みデビュー!
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「お。未月久しぶり」
「久しぶり。山本」
教室に入ると既に山本がいて、俺も窓際の最後尾、自分の席に着く。
一ヶ月(補習あったから未満だけど)ぶりの教室は懐かしく感じた。
「お前、日焼けした?」
「あー、うん。お盆にばあちゃんチ行って、その時海行ってきたから」
色々あった夏祭りを終えた後、俺は家族で母さんの実家がある新潟に帰った。
(お盆の間、毎日海行ってたからなぁ)
と、楽しかった日々を振り返る。その途中、余計なことまで思い出しそうになって頭を振った。
「満喫できて良かったじゃん。補習はあったけど」
補習……。
「……なんでそこで赤くなんだよ」
「べ、別に! そんなことねぇよっ」
「ふーん……?」
変に疑いの目を向けられてしまって、つい逸らしてしまった。
(アイツの悪夢のせいだ、絶対!)
夏休み、満喫できなかったのアイツが変なことしてくるから。結局、会わなくても頭がふとした時に思い出してしまう。
「はぁ……もう最悪だ……」
「何? 宿題終わってないとか?」
机に突っ伏す俺に山本はそう聞いてくる。
(そっちも大変だったけど、今は違うんだよ。山本……)
死んでも言えないから絶対墓場まで持っていこう。
「それは、昨日なんとか」
「おま、ギリギリかよ」
こっちに帰って来る前、父さんに手伝ってもらって。
毎年最初の方に終わらせようと思っても、中々計画通りにはいかず。
(それに高校初の夏休みが、あんな展開になるなんて思わなかったし)
アイツのこともそうだけど、亜宮先輩も。
できれば会いたくないな……。
なんて思っていると、ガラッと教室のドアが開いた。
「あ、おはよ。七瀬くんとるいくん、髪染めたの?」
「うん! 夏休みデビューしちゃった♡」
「同じ色にしてみたんだ♪」
「わぁ、可愛いよー!」
「ふふ、ありがとう」
そんな会話が聞こえてきて、顔を向ける。
夏休み前は黒髪だった岸田と林の髪はキレイに茶髪へと変わっていた。林の方は軽くウェーブがかかっている。
そんな光景にここ女子校だっけ? と思ってしまう会話。
「アイツら染めたんだ。しかもお揃って……女子か」
「……あはは」
俺と同じこと思っていた山本に苦笑してしまう。
教室の入り口前では、岸田と林を中心に緋結や菜由、他のクラスメイトも集まって楽しそうに話している。
(夏休みデビューかぁ……)
その光景を見ていたらバチッと岸田と目が合って、ふっと笑われた。
な、なんだよ。一体っ。
また何か言われる予兆かと思った時、そう言えば、と岸田が声を上げた。
「僕たち彼氏もできたんだ。ね、るい」
えぇ!?
「もう、恥ずかしいよ。七瀬ってば」
「えー! そうなの!?」
「誰!?」
岸田の言葉に周りにいたクラスメイトがこぞって聞いている。つい、俺も耳を傾けてしまって。
「一個上で、二年の──」
「みんな、おはよう。ほら、始業式始まるから早く体育館に集合しろー」
ちょ、木崎先生!
岸田がちょうど相手の名前を口にしようとしたそのタイミングで、木崎先生が良いのか悪いのか教室に入ってきた。
「えー、行きたくなーい」
「何言ってるんだ。さっさとしろよ」
木崎先生が出て行くと、みんな渋々教室を後にする。
「悠季くん、先行ってるねー!」
「あ、うん!」
緋結が教室を出る直前、そう声を掛けてくれて頷く。菜由も、また後でねと手を振ってくれた。
「いいよな、夏休みデビューとか。俺なんかお盆以外ずっと部活だったぜ」
「剣道?」
「いえーす」
俺と山本も立ち上がって、みんなが出て行ったあとを追いかけるように教室を出る。
「てかさ、アイツらに彼氏できたってことはもう構われることないんじゃね? 良かったじゃん!」
山本もさっきの話を聞いていたらしく、ぽんっと肩を叩かれる。
「まぁ、そうなんだけど……」
「なんだよ。嬉しくねぇの?」
嬉しくないわけじゃない。
ただ、二年の先輩って二人のどっちかの相手、まさかアイツなんじゃ……と考えてしまう。
(てか、そうじゃなきゃさっきあんな顔しないよな)
俺に向けてきた笑みにぐるぐると考えてしまう。けど、そこではっとした。
いやいや、別にアイツが誰と付き合ってようが関係ないし! 寧ろそれこそ好都合じゃんかっ。
「……未月?」
「う、嬉しい!! ものすっごく!」
「お、おー……ならいいけど」
そうだよ! アイツと付き合ってた方がもう両方から嫌がらせされなくて済むし、万々歳じゃんっ。喜ぶべきとこだろ、バカ!
本当にそうだったら下僕(俺は断じて認めてない!)なんて言わなくなるだろうしな。
今日、お金返すのに会わなきゃだから聞いてみよ。
(あー、だけどやっぱ会いたくない……)
始業式だけだからその後が憂鬱になる俺の隣で山本が口を開いた。
「でも、お前も夏休みデビューしてるよな」
「? どこが……」
「日焼けデビュー。ははっ」
「っ、バカにすんな!」
それに、ははってなんだよっ!
なんて話しながら体育館に辿り着いた時には、生徒指導の萩山先生にめちゃくちゃ怒られた。
三分過ぎただけなのに……。
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