アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
約束
-
_________…
あれから斎に会うのが何となく気まずく、凪は忙しいという理由をつけて歯医者を休んでいた。
―――気まずいなんてものじゃない
会いたくない。勿論あんなことがあったからだ。
あの日から一週間がたったが、斎からは何の音沙汰もなかった。そうしている間にも歯医者に行く日は近づいて、結局顔を合わせる勇気が出ないまま、ついに歯医者をサボったのだ。
―――なんか、もっとこうさ。連絡とかしてくれてもいいんじゃねぇのか……?
一応あんなことがあったわけだし……
なんて女々しいこと考えている自分に嫌気が指し、凪は頭をぶん、と振って冷静を取り戻す。
……なんか、俺こんなに人に振り回されたことないかも。
思い返せば、今まで付き合ってきた女の子たちにすら、こういう感情になったことはなかった。
連絡なんて別にしてほしいと思ったことはないし、寧ろ鬱陶しささえ感じていたのに、斎からの連絡を待っているという自分が信じられない。
斎と出会ってから、自分の弱々しい部分がさらけ出されているような気分になる。
……なんだかな。
自分が自分じゃなくなっていく感じ。
「…はぁ…」
一人、自分のベッドの上で溜め息を溢した。
その時、手に持っていたスマートフォンが震えた。
その振動に凪は驚くと同時に、一気に期待と胸の高鳴りが沸き起こるのを押さえられなかった。
すぐさま寝そべっていた身体を起こし、電話に出る。
「もしも…」「お前サボっただろ」
もしもし、と言いかけたところを遮られると、斎の冷たくも優しい声色が耳に届く。
不覚にもどきどきとする心臓は、斎の声に反応して身体にじわ、と熱を持たせた。
そんなことを悟られないよう、凪は声を張る。
「…う、るせぇっ、俺だって忙しいんだよ」
「…ほーう?俺に反抗する気か」
「だっ、誰がお前の言うことなんか聞くかっ!」
「まぁ、今回は許してやる」
「許してもらいたくもないね」
「そうか。お前が気が済まないと言うのなら、会ったときに謝罪も含めて奉仕してもらおうか」
「は……ほ、奉仕?」
んだそれ、と凪は頭にハテナを浮かべる。
「奉仕。そのままの意味だが?そうだな…例えば、俺の上に乗って可愛く腰を振ってくれるとか」
クスリ、と笑う声が聞こえてくる。
「は、…はぁ?!…な、に、なに言ってんだよっ、…っ…バカ!死ね!」
想像して赤くなった顔はとても見せられるものではなかったであろう。
電話でよかったと本気で思った。
電話の向こうで斎の笑った声が聞こえてくる。
「…あ、明日迎えにいくからちゃんと準備して待ってろ」
突然、笑っていた声がいつの間にか止むと、真剣な声で告げられた。
「は?!何でだよ!」
またもや、勝手に決められた凪は突然すぎる斎の申し出に反論しようと声を上げるがその声は、ツーツー、と響く電子音により掻き消されたのだった。
「…言い逃げしやがった…あんのやろ…」
電話が切れたことを知らせる電子音に苛、とすると凪はスマートフォンをベッドの端に投げ捨て、ごろんと身体を倒した。
勝手に決められた約束に凪は少しだけ、先程までとは違い、どこか充実した感情が凪の心を満たしていたことを本人すら自覚していないのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 125