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手を引かれて、浴室に入る。
狭い空間に二人きりなのだと、改めて認識すると、幼馴染とはいえ、少し緊張した。
祐也の背中がやけに広くて、どきどきした。この感情が何なのかは、知る由もないのだが。
なかは薄暗くて、脱衣所からの灯りがぼんやりと浴室の内部を照らしていた。祐也が以前住んでいた、アパートの風呂よりも、幾分広くなったように思う。水蒸気が充満した部屋は、暖かくて、入浴剤の甘やかな香りが鼻を擽った。少し、変な気分になる。
背を向けていた祐也が振り返って、笑顔を見せてきた。
「凪、洗ってあげようか」
そう言った祐也が、返答も聞かぬまま、湯船の側に置いてある、風呂椅子に座らせた。
「ちょっ、自分で洗うからいいって…」
「だめ。俺が洗うの!」
子供のように駄々をこねる祐也。反論するのも面倒だったので、渋々、言う通りにすることにした。
「何なんだよ、もう」
溜息をわざと大きく吐きながら、祐也が洗ってくれるのを待つ。
祐也は凪の後ろに回ると、湯船の縁に座った。
シャンプーを備え付けの棚から持ち出して、シャワーの蛇口を捻る。水が勢いよく噴出すると、温かくなるのを確認してから、頭に掛けられた。
温度は調度良かった。
髪がある程度湿ると、祐也がシャンプーを手の平に出した。長細な祐也の指が、優しく頭を洗っていく。
「凪。上向いて」
祐也の声が頭上から聞こえて、言われた通りに上を向く。顔を上げた先に、祐也の顔が見えた。
「ん」
短く返事をして、祐也の顔を下から眺める。
「いい子」
祐也がそう言って、にこりと笑った。
祐也の笑い顔は、好きだ。見ていて気持ち良くなるから。
自分は、あまり笑顔を見せることはなくて。嬉しいことや、楽しいことがあっても、何となく照れ臭くて、笑うのを躊躇ってしまう。だから、常に笑顔で、明るい祐也のことを、俺は心のどこかで、憧れているのかもしれない。
そう思っていると、ばちりと祐也と目が合った。
「凪ちゃん、そんなに見られると恥ずかしいんだけど…」
少し照れた表情で、祐也が言った。
「どーして」
これは反撃開始だ。そう思って目を見開き、じぃ、と祐也を見つめる。
「………」
「ふっふっふ、声も出ねぇか」
楽しくなってきた凪は、他に祐也を困らす手はないか、と考える。が、その時。
ちゅ、と唇に祐也がキスをした。
「………」
すぐに離された唇。唖然としたまま、凝視する凪を見て、祐也が得意気に鼻で笑うと、薄い唇をぺろりと舐め上げた。
「仕返し」
祐也がにこりと笑って、洗髪が再開される。
「…っ!」
状況を理解した凪は、ぼっ、と顔を真赤に染めた。すぐに上を向くのを止めて、どきどきとする鼓動を隠した。
…なんだこれ?なんでこんなドキドキして……
自分のなかの幼馴染である祐也が、音を立てて崩れていくような気がした。
それは果たして、良いことなのか、悪いことなのか──
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