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「っ…何……」
壁へ押しつけられた凪は、相手を見る。
そこには、あの憎き男がいた。
「何してんだよ、離せ…っ!」
暴れる凪は、男の胸を押すが、びくともしない。逆に男の鍛え上げられた胸に触れ、こんな男から逃げられないと悟る。
百七十を超える凪の身長を、優に超える男が、凪を見下す。
「…あんた何なんだよさっきから!俺、まだお前のこと許したわけじゃねぇからな!」
「斎と呼べ」
「…はぁ?」
「斎だ。名前で呼べ」
斎という男の榛色の眸が、凪を捉える。そのまま吸い込まれるように、顔が近づいた。
また、キスされる。
咄嗟に目を瞑り、唇を手の甲で隠した。
頭上から降ってくる、笑声にそっと目を開ける。見上げると、男が喉で小さく笑っていた。
「っおい、何が可笑しいんだよ……」
男に文句を言ってやろうとした、そのとき。
ふわりとした柔らかな生地が首に巻かれた。微かに柔軟剤のような良い香りが鼻を抜ける。
「なに……」
自分の首元を見る。藍色の生地のマフラーが巻き付けられていた。肌触りが柔らかく、すぐに安物のマフラーではないことが分かる。
「それやるよ」
「は…?い、いや、いい!今更、優しくされたところで俺は騙されないぞ」
「いいから、素直に貰っとけ」
「いいって…!それに、こんな高そうなの貰えない」
男に返そうと、首に巻かれたマフラーに手を掛ける。
「それ、はずしたらまたキスするぞ」
「なっ!」
「お前がそうしたいなら俺は構わないけどな」
「脅しかよ…!汚ぇぞ!」
「はいはい。お子様は帰って寝な」
「誰がお子様だ!子供扱いすんなっ」
「はいはい」
そう言って男は、掌をひらひらとさせながら、仕事へと戻って行った。男の意外な優しさに触れた凪は、案外、悪い奴ではないのかもしれない、と、評価を改めたのだった。
それでもあの男がしたキスに関しては、到底許されるものではないのだが。
藍色のマフラーを首に巻きなおし、一条歯科医院を後にしたのだった。
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