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母と狗(1)
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――それはある冬のことだ。町外れにぽつりとあるその民家の母親が姿を消した。今年小学校に入学するその小さな男の子を残して。
数時間後にその家にやってきた男は、布団のなかから顔を出して「お母さん?」と問う男の子を見て笑みを浮かべた。
「見つけた。私の――」
それはまるで、獲物を見つけた猛獣のようだと、一緒に来ていた男のうちの一人が小さく呟いた。
□■□■
ぱちりと目を開けた九白吉春(くしろよしはる)は、天井を眺めながら何度も瞬く。ここはどこだと。視線をさ迷わせ、香る匂いから察するに、ここは――。
「病院……?」
「起きましたか?」
「……次郎(じろう)、オレ、なんで病院にいるんだ?」
頭上から聞こえてきた声に起き上がれば頭がふらつき、次郎と呼ばれた男が吉春を支える。解らないとその意味を込めて瞳を遣れば、ベッド脇に腰を下ろしている次郎は吉春の肩に掛かる髪を掬った。
「倒れたんですよ。バイト先で。いましがた帰りましたが、店長が来ていましたよ」
「そうか……」
「解った」と次郎に告げた吉春は小さく息を吐いて、次郎の肩に躯を預ける。
「寝不足と栄養失調だと言っておりましたね。点滴で大分よくなりましたが、今日はこのまま過ごすようにと」
「……そう」
まだ頭が重い。だからなのか、瞼も重くなる。
「眠たいなら寝ても構いませんよ」
「ああ……。もう少し寝るな」
「はい。私の可愛い吉春」
額に口付けられた吉春は、重い瞼をそのまま閉じた。
□■□■
きっとこれは悪い夢なのだと、誰かが言ってくれないものだろうか。
まさか自分の母親がいなくなるとは、夢にも思わないだろう。
「お母さん」「お母さん」と吉春は誰かにしがみ付きながら泣いていた。母親がいなくなったと告げられ、不安になったのだろう。
小さな肩を震わせてむせび泣く吉春の背中を、男は優しく撫でている。
「心配はいりません。私があなたの家族になりますから」
「家、族……?」
「はい。あなたの母となり父となり、兄弟姉妹になります。――いますぐにでも。だから泣かないでください。私の可愛い可愛い吉春」
額に口付けられた吉春は目を丸くさせたあと、嬉しそうに笑った。
男は目を細めながら、今度は瞼に唇を寄せる。
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