アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
母と狗(6)
-
ふたたびよかったとほっとして、涙が溢れてきてしまう。
「じ、ろ……っ」
「はい」
「次郎」「次郎」と紡げば紡ぐほど、与えられる温もりが強くなった。
繋がりを深くすれば、乱れた呼吸や水音が部屋を満たす。声を聞かれるのは嫌だと時折布団やネクタイを噛む吉春は、その度にそこから離され、深いキスをされてしまう。
「っあ……、あ……じろっ……、も、逃げない、から……」
「無理ですよ。私が吉春を離すわけがありません。たまにはこういうのも好きですよね?」
「好きじゃない」というその言葉は、当たり前に溶かされてしまう。
顔を綻ばせた次郎のキスによって。
□■□■
少し寝て体力を回復した吉春はいま、次郎に抱き抱えられていた。変わらず手首にはネクタイがあるが、緩めてくれているようだ。
「着きましたよ」
「着いたって……、どこに? オレ疲れてんだけど……」
「母屋です。大事な話がありますからね」
「わっ!? じ、次郎、お前っ」
母屋の障子が向こう側から開き、なかに足を踏み入れた矢先、次郎からバチバチと高い音がした。刹那、はらりと艶やかな髪が宙を舞う。
服装は前とは違い、白い着物だ。一見で高級だと解るそれは、次郎によく似合っていた。頭には変わらずに動物のミミが生えていたが、ここからではしっぽは見えない。
「き、着物……、似合うな」
「ありがとうございます」
「『狗神』様、どうぞこちらへ」
障子を開けたらしい女が立ち上がり、奥へと進む。あとを着いていく間、吉春は次郎の胸に躯を預けていた。とくとくと流れる心地よい心音に、うつらうつらと瞼が揺れる。しかし寝てはいけないとブンブンと頭を振った。
「吉春?」
「なんでもねーから! ほら、ちゃんと歩けって」
「はい」
そうしてまた躯を預ければ、すぐに瞼が踊り出す。知らず知らず頬を擦り寄せていたことにも気付かずに。
次郎は眠気に負けそうな吉春の額に唇を落とした。
「――私の可愛い可愛い吉春」
コホンと女が咳払いをしたのは、四度目の口付けを終えたときである。
□■□■
襖の向こうに並ぶのは、『九白』の重鎮たちだ。厳かな空気が流れ、誰もが固い顔をしていた。そのお蔭で、吉春の眠気は彼方に飛んだ。
次郎と和室を交互に見遣り、座るうちのひとりの店長に視線を遣るが、ただ笑顔を返されて終わりだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 12