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母と狗(9)
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「私の可愛い可愛い吉春。あなたが死んでも、私はあなたを愛しますよ」
真っ赤な顔の吉春は、美しく笑う『狗神』様に唇を奪われた。
□■□■
数日後、吉春は次郎と共に、母の墓参りへと出掛けていった。立派なそこに眠る母に手を合わせた帰り道、次郎の我慢が切れたお蔭で、こうして店にも顔を出す。
もちろん父の墓参りも希望したが、相手方に断られてしまったと『九白』の主に言われてしまった。「まだ許していない」と――。
次郎は「人間の恨みというものは、犬神の怨念と同等に恐ろしいですね」と呆れていた。ミミとしっぽを出しながら。どうやらスーツ姿であろうと、それぞれ出し入れは可能らしい。それは力を誇示する為に行われているようだ。その後にキスをされ、吉春は次郎を蹴飛ばしたのは言うまでもない。
「ちょっ……、抱きつくなっ!」
「私の吉春」
「んっ! ば、バカ! 耳を噛むなって」
抱きついた瞬間から、次郎を引き剥がそうと肘で押していたが、うまくいかずに体力が消耗するだけである。はーはーと息をあらげる吉春に対し、店長がカラカラと笑う。
「吉くん、ジロちゃんを見てみなさいよ」
「は?」
「ジロちゃんのしっぽ、すっごいわよ!」
促されて肩越しに次郎のしっぽを見てみれば、それは犬のようにはち切れん張りにブンブンと振られていた。
次郎が使うお金は『九白』から渡されていることを知ったいまも、吉春はここでバイトをしている。
ちなみに店長は『九白』の分家であり、昔から次郎を知っていたようだ。ここのバイトだけは許してくれている理由はそこにあるという。次郎は吉春に恋愛感情を抱く人間がいないことに安心したいのだ。自分だけ想うことに、自分だけが想われていることに、次郎はあぐらをかいている。
吉春からは『狗神』様と呼ばれたくはないと相談され、名前を付けてあげたのも店長だ。「次郎でいいんじゃない? 『狗神』様はなんとなく次男っぽい顔してるし」と。「それでいいです」と納得してしまった次郎も次郎だが、呼びやすいのでこれはこれでよかったのかもしれない。
「次郎……!」
「はい。私の可愛い吉春」
「ばっ……キスすんな!」
顔を背けながら脛を蹴飛ばす吉春の手を取り、次郎は顔を綻ばせる。
「帰りましょうか」
――あの家に。
吉春が望めば、『九白』での生活は容易い。しかし吉春はそれを断った。次郎と共にあの家に住むからと。
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