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意外な組み合わせ
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「あかん……………………俺、死ぬな」
快晴に恵まれた、午後の明るい日差し。
上を見れば、雲一つない青い空と学校の校舎の白さが、とても爽やかなコントラストをなす。
爽やか。
今の自分には、眩しくて目に痛い。
「さすがに、連チャンの激しさは身体に毒や…………」
今日もニコニコ真面目(?)に学校へ来ていた大和は、薄っぺらい鞄を脇に挟み、玄関の柱へ手を突きながら項垂れる。
朝、辛かったな……………………。
高橋に起こされるまで、爆睡。
カーテンが開いても、全く気付かなかった。
偶々この日、学校で先生達の研修会とやらがあるとかで早く授業が終われたが、それがなかったら、医務室で落ちてたと思う。
「どのみち、授業中も寝てたから一緒か………………てか、あいつ……………………マジ、不死身か」
あいつ。
そう、あいつ………………勿論、我が愛する親父様。
黒河と対峙した夜も、昨日の夜も、あんだけ激しかったのに、朝は飄々としている。
なんなら、今朝なんか高橋の朝飯平らげ、冗談飛ばして笑ってた。(大和は、珈琲一杯でギブ)
「どんだけ強いねん………………アホ」
でも、そこがまた、シビれちゃう。
男って、強い男に憧れる。
あの人が自分のものだと思うと、疲れた顔も自然と緩む。
もう、好きで好きで、大好きで…………………また今夜も誘われたらどうしよう。
「………………………俺、よう断らん」
大和は顔を赤らめ、デレデレっぷりをさらす。
結局、身体に毒でも止められない。
最早、中毒です。
「だって、しゃーないやん………………っ」
父親独特の艶っぽい声と、エロい眼差しに迫られて、断れる人間がいるだろうか?
いないに決まってる!
いや、多くはないだろうが、そんな訳はない。
ゾッコンとは、何もかもを肯定させるらしい。
「や、大和……………………大丈夫?」
大丈夫では、ありません。
理性が。
「へ…………………………」
父親との激LOVEに、脳まで犯される友を心配する、美声。
美人は、声まで美しい。
それを地でいく、立役者。
この声は……………………。
大和は、突然背後から聞こえた綺麗な声に、慌てて振り返る。
「颯……………………っ!!」
「今、帰り…………………?」
俺の癒しぃぃ………………っ!
別れても、外見の好みは変わらない。
大和の目に、颯はクレオパトラよりイケている。
「どうしたの?ずっと独り言喋ってたみたいだけど……………………」
ただ、そのイケてるパトラも、自分を見てくる大和の姿に、今日は苦笑気味。
無理もない。
下校する生徒達に紛れ、一人ブツブツ喋り続ける、大和。
ボンボン学校で、普段でも目立つ大和が、余計目立ってる。
正直、声をかけてよいか躊躇した。(見てはいけない気がして)
「家で、何かあった………………?」
それでも、颯は大和を見上げ、心配そうに訊ねる。
その立ち位置は変化しても、今でも大和は颯にとって大切な人。
学校に大和がいる時は、やっぱり何かと気になった。
「ああ………………いや、大した事やない。ちょっと、授業でわからん事があったさかい、それ思い出してただけや………………ありがとうな、颯」
自分へ顔を上げる、無防備な美しさ。
言える訳がなかろう。
親父とのセックスに溺れる我が身。
口が裂けても言えん………………。
無垢な颯に、大和は満面の笑みで答える。
「本当?じゃあ、また勉強教えてあげるね」
「悪いな、いつも………………でも、あんま気ィ使うなや?駄目な時は、駄目言うてくれたらええんやで」
「クス…………………使ってないよ。今更でしょ?」
今更。
酸いも甘いも、互いに経験して来た仲ですから。
「なら、ええけど……………」
校内でも有名なイケメン×美少年の、睦まじい様子。
いつの間にか、周りにいた生徒達の視線は、そこへ注がれる。
大人に囲まれた世界では、まだまだ未熟者の大和や颯も、同世代の中では疾うに羨望の的。
特別な生徒となっていた。
ザッ…………………………
「あれ……………………錦戸……………」
そんな特別な二人が会話を弾ませ、正門まで歩い行くと、珍しい光景が目に飛び込んで来た。
あれ?
自分達を眺める生徒達によって、自ずと出来た道など知る由もない大和は、行く手に佇む男に目を丸くする。
「………………錦戸……………さん?」
そして、大和の声に反応するように、颯もまた正門の外へ視線を向けた。
錦戸。
颯が初めて会う、新たなヤクザ。
大和に呼ばれ、こちらを見る錦戸の凛とした姿。
微かに笑みを浮かべながら、自分達へ軽く会釈する仕草も様になる。
「お疲れ様です……………………若」
わぁ………………片山さんみたい……………。
錦戸から漂う大人の雰囲気に、颯は同じ様に大人を感じさせる片山を重ねた。
颯は知らない。
大和の周りは、こんな男達がゴロゴロしている事を。
「颯は、初めてやったな………………こいつは、親父の右腕で錦戸言うんや。まだ二十代やけど、組の立派な幹部や」
自分の隣で、その存在感に飲まれる颯を見て、大和は尽かさず錦戸を紹介した。
「幹部……………!?こんなにお若いのに………」
「いえいえ、私は前任者が抜けた穴に入っただけ……運が良かったんです」
「よう言うわ………………今の竜童で、お前に逆らえる奴は少ないで。颯…………こいつな、こないな顔しとるけど、めっちゃ恐いんや。親父も頭上がらんねん」
「えっ………………あのお父さんがっ」
親父も頭が上がらない。
竜童会では、見慣れた日常だが、颯には衝撃。
颯の中で、嵩原は出来過ぎる位に完璧なお父さん。
そんな嵩原が頭が上がらないなんて、どんなに恐いのだろう。
美化され過ぎたイメージとは、素晴らしい。
星の輝く颯の瞳が、素敵な嵩原をいじめる存在に、みるみる怯えてく。
「若……………………私に、何ぞ恨みでもありますか?ちゃんとお名前をお伺いする前に、恐怖を植え付けられとりますけど」
「あ…………………………」
つい、日頃の馴れ合いが。
呆れる錦戸の言葉に、大和はハッとした。
「ちゃうちゃう、颯っ!錦戸は、仕事に厳しいだけなんや…………普段は、よう気の利く優しい男やから」
「そ、そう…………………?」
「そうそうっ!ちと他人より、不器用やけどな!」
「あの、若……………………」
確かに、不器用。
自分の気持ちを表に出すのが、苦手。
だけど、本当は常に周りへ目を配り、嵩原や仲間の事をとても大切に想ってる。
高橋の完璧さに隠れてはいるが、錦戸は短期間でそれにも劣らない所まで上り詰めた。
それが、どんなに大変な苦労か。
嵩原が絶大な信頼を寄せている事で、その努力は立証されている。
「ま………………私の印象なんて、どちらでも構いませんが…………………親父や若のイメージが良いのなら」
「錦戸……………………」
大和へ微笑みかける、錦戸の落ち着いた貫禄。
右腕としての才は、今や高橋に負けていない。
「颯様……………………と言われるのですね。颯様、いつも若がお世話になっております。下に仕える者として、心から御礼申し上げます」
「あ、あ…………………そんな……っ………こちらこそ、神崎颯と申しますっ」
しかも、お上品で丁寧な挨拶に、颯も頬を赤く染め急いで頭を下げた。
嵩原しかり、片山しかり。
大和の知るヤクザとは、誰もが紳士で驚かされる。
大和達は、凄い!
険しい世界の微塵も感じさせない、格好良さ。
自分の持つ、ヤクザへの概念を見事に覆してくれた大和達を、颯は改めて尊敬する。
「……………………せやけど、錦戸。今日は、何でお前がここへ来たんや?俺、これから山代ンとこ行くさかい、高橋に迎え断ったんやで?」
一通りの挨拶が済んだのを見計らい、大和はいつもは来る事のない錦戸が来た理由に、首を傾げる。
「ええ、だからです」
「…………………………は?」
「実は、今朝マンションへお伺い致しましたら、親父に山代組の近くまで使いを頼まれまして………」
「使い……………………?」
「はい………………と言いましても、高橋は若に断られとったんで、私へ口実を付けたんやと思いますが」
口実………………………?
「タクシーでは、心許ない。高橋を強引に行かさすよりは、私なら若も断らへんやろと……………」
「え…………………………」
それは、組員に大和を護衛させる為。
高橋より、錦戸の方が大和も気を使う。
わざわざ来てくれた錦戸を、大和が帰らす筈がない。
「口には出さへんですが…………………マフィアの事もありますさかい、ご心配なんです、若の事が。高橋を気遣う若のお気持ちもわかりますけど、どうぞ組員を遠慮のう足にお使い下さい」
「錦戸……………………あ、ん…………………すまん」
知らぬ間に動いてる、父親の愛情。
多分、これが初めてではないだろう。
自分の耳に入って来ないものも入れたら、今までにいくつあったのか?
子供って、何かが無いと、案外親心に気付かない。
周りを気遣ったつもりが、逆に気遣わせる。
親父…………………………。
自分を諭す錦戸の話に、大和は照れ臭そうに目を伏せた。
「大和……………………」
その大和を見る颯は、大和が嵩原に大切にされている事に、嬉しくなる。
大和、幸せそう…………………。
自分がこんな事思うのは、自惚れかもしれないが、自分の選択は間違っていなかったと、ホッとする。
「…………………なら、俺……………そろそろ帰るよ。出掛けるならば、気を付けてね」
颯は、幸せそうな大和を見て安心すると、邪魔をしないように早々と切り上げに入った。
自分と違って、大和は忙しい。
大和の邪魔にはなりたくないと、颯なりに一線を引いた。
「あ?帰るなら、送ってったるわ………………颯」
「そうですよ。車近くに停めておりますので、どうかお乗り下さい」
「ぇえ…………………や、でも俺…………………」
自分に気を使って先を行こうとする颯を、大和は腕を掴んで車に誘う。
腕を掴んで。
大和より華奢な颯が、腕を掴まれて引っ張られる。
要らない妄想だが、何だかまるで……………………。
「おい、人攫いか……………………?」
人攫い!?
はい…………………………?
大和と錦戸を前に、平気でそれを口にする。
颯に引けをとらない外見も、このクールさに薄れてしまう。
「相変わらず、颯には強引だな………………大和」
「ゲッ………………………海っ!!」
思わず発した大和の声に、振り向いた錦戸は息を飲む。
海………………………?
「…………………………これは」
また、えらい美人やな……………………。
颯を見た瞬間も美しさには目を惹いたが、現れた海の美しさは群を抜いていた。
ここまでの美形は、見たことがない。
ヤクザでも綺麗どころは、それなりにいる。
伊勢谷や山代を始めとして、そこに箔を付け、男を上げている片山や高橋…………………。
大体、あの嵩原の側に毎日いれば、いい男を見る目なんて格段に肥える。
自分でも、そう言った男達には目が慣れているつもり…………………つもりだったが、意外にも見とれてしまった。
そこに立つ、クールな少年に。
「海……………………言うんか…………」
錦戸は、大和へ歩み寄る海を見つめながら、自分の『意外』さに微かな驚きを覚える。
兄を失って、10年。
自分を救ってくれた嵩原と、兄の敵相手以外、他人に興味など抱いた事なかったのに……………………。
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