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大御所の領分
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桁が違う。
動いた時点で、その勢力は計り知れず。
ガチャ……………………
「花崎…………どないしたんや?そないに慌てて……」
玄関ドアを開け、驚く錦戸の表情が、突然の出来事を物語る。
数分前、リビングの壁に備え付けられたインターホンが、いきなり鳴り出した。
相手は、今目の前にいる花崎。
錦戸が応対に出るや否や、耳が痛くなるほどの声で『親父』を連呼。
とりあえず、先に上へと来させてからの、これ。
「ハァ…………ハ……………すっ、すみません!失礼しますっ!!」
「は?え、おいっ……………花崎……っ!?」
錦戸の質問に答える間もなく中へと押し入る、花崎の慌てよう。
若に、何かあったのか……………!?
廊下をドタドタと進んで行く花崎の後ろ姿を追い、錦戸も顔色を変える。
平和だと思っていた一日が、一瞬で消え失せた。
この世界って、こんなもの。
いつ何時、何が起こるかわからない。
「親父………………っ!!」
親父。
焦る組員の叫び声がそうこだましたら、既に事態は悪化している証。
「……………………あ?」
ただ、親父は少々じゃ動かない。
リビングへ駆け込んで来た花崎を見上げ、悠然と煙草を吹かす。
自分の眼下にいる組員は、今や3万に迫る。
いちいち驚いてたら、身体が持たない。
「なんや、花崎………………今日、暑いか?えらい顔赤いな」
「もぉ………………親父ィーっ!」
こう言う変化球だって、飛んでくる。
いつもの事だが、拍子抜けする嵩原の態度に、花崎はヘナヘナとその場に崩れ落ちる。
頼んます、組長。
項垂れる花崎から注がれる、力の抜けた眼差し。
外は、雨。
ちょっとひんやりする気温とはかけ離れた、花崎の顔を流れる雫。
雨じゃない。
汗だ。
支部にいた筈の花崎が、汗ばむ程急ぐ。
駐車場の車までと、マンションの中。
エレベータに飛び乗り、ここまで走ったか…………。
「…………………支部で、何があったんな」
少しだけ唇から煙草を離し、煙と共に流れ出る嵩原の静かな声。
支部で。
呑気に構えているようで、見てる。
その一言で、組員達は不思議と救われるのだから、嵩原マジック。
煙越しに映る嵩原の瞳に、花崎は大きく息を吸い込み、顔を上げた。
「はい…………………あ、でも詳しくは…………その…」
……………………知らないな。
何とも言えない緊迫した空気と、強張る伊勢谷の指示に、早く行かねばとろくに話も聞かずに来ました、彼。
「そのォ?………………何しに来たんな、お前」
そんな花崎を見下ろし、錦戸は溜め息を漏らす。
一番肝心な所だろ、それ。
「すみませんっ………………それが、支部の正門で、大和や高橋さんが他所の組の人間と話してて、俺達は中におったんで気付いたんが遅かったんです。まあ、駆け付けた時には、えらい白熱した感じになっとりましたけど……………」
「他所の組………………?」
「ええ……………多分、徳新会の若手か関係者やと思います。大和が、徳新会に殴り込みだと叫んでましたから」
「徳新会って………………」
桜井湊のいる組。
定例会で会ってから、錦戸が嵩原の命でとっくに調査済み。
花崎の話に耳を傾けていた錦戸は、チラッと目を向け嵩原を捉えた。
「桜井湊に、何や起きたんかもしれんな…………」
にわかに眼光鋭くなる、嵩原の視線。
あの桜井が、大和を激怒させる真似をするとは思えない。
しかし、大和の口からは『殴り込み』。
物騒な単語が出たもんだ。
支部が立ち上がったばかりで、抗争勃発か?
嵩原は煙草を咥え直し、軽く天井を仰ぐ。
あのアホたれ…………一報も入れんと……………。
言い換えるなら、そこまで切羽詰まった話とも言える。
「親父…………………」
「……………………車出せ。行ってみるしかないやろ………話は、それからや」
重い腰も、組の事が絡むと上げない訳にはいかない。
大和に任せているとは言え、抗争となればバックに組の名が付く。
天下の竜童会。
自ずと嵩原が顔となる。
「何人集めますか?」
錦戸は、嵩原に何かないように、守れるだけの護衛を付けようかと、ポケットからスマホを取り出した。
「片手でええわ」
「片手…………………?」
「俺が動いた瞬間から、組員全員が動けんねん。別に、何人連れて行こうが一緒や」
確かに。
親の号令一つで、世界を変える様な景色が広がる。
慌てる必要もない。
こちらには膨大な人数の兵。
嵩原の言葉に、錦戸は失礼しましたと言わんばかりに頭を下げる。
嵩原の力。
それの影響力は、当然いまだ絶大。
万を相手にするか、否か。
「久々に、湊の顔でも拝んだるか…………」
雨に覆われた世界。
遠き空に、僅かに差し込む光あり。
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