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一人の戦い(やや★)
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ただ、守りたいだけ。
気持ちとPRIDEと、好きな奴。
ガッ………………………!!
「ぐはっ…………………」
封鎖された密室。
誰も近付く事を許されない、この空間。
非情なまでに、今極道の世界をまざまざと見せ付ける。
「はぁ…………は……ぁ…………まさか、てめぇの組とやり合うとは思わなかったけど…………案外大した事ねーんだな、徳新会って組は」
自分へ殴りかかった組員をヒラリと避け、後頭部へ肘鉄を食らわした桜井は言う。
足元には、既に10人ほどは転がっているだろうか。
急所を上手く突かれ、その誰もが気を失っている。
若くても、さすがに自力で若頭まで上り詰めた男は、簡単には潰れなかった。
腕が立つ桜井の顔は、いまだ美しく傷一つない端整さ。
憎たらしい程に、輝きは増すばかり。
「桜井…………………っ」
横たわる組員達の奥でそれを眺める大藤は、苦々しくも眩しい姿を睨み付けた。
自分が拾ってきたとは言え、こうも牙を剥かれると可愛げも失せる。
何とかして、捩じ伏せてやろうかと思うもの。
「フン………………好きなだけ暴れるがいい。どんなに抵抗しても、どうせ一人じゃ何にも出来ねぇ。ここにいる奴等全員倒したって、徳新会3500人の手から逃れられねぇんだからな」
「そりゃ、光栄だね………………たった一人相手に、組全体で必死になってくれるなんてさ」
「抜かせ…………組をデカくして、名を馳せる為には金がいる。莫大な資金が手に出来るチャンスを、みすみすドブに捨てるような真似する馬鹿がいるか…………悪いが、お前には何としても指示に従ってもらう」
鼻先にぶら下げられた餌の威力。
劉組織が所有する上質な麻薬が、貪欲に生き抜く連中を狂わせる。
竜童会や白洲会にはない、小さな組の必死の生き残り。
金が、手に入る。
残念だが、それだけ金で動く世界である事は否めない。
組に尽くした桜井一人より、自ずと比重は傾いた。
カシャ……………………
周りを取り囲む組員達の、血走る目付き。
その中の一人が、大きなサバイバルナイフを取り出し、ジリジリと桜井へ詰め寄った。
「すまねぇな、桜井………………お前に恨みはねぇんだけどなァ………っ!!」
「チッ…………………」
怒鳴り声が合図のように、数人が一斉に桜井目掛けて襲いかかる。
四方八方から伸びる、手。
迫り来る黒い影に、瞬く間に覆われる桜井を見て、大藤はニヤリと笑みを浮かべた。
避ける隙間は、埋まった。
これで桜井も袋叩きだ。
自分に歯向かった仕打ちだと胸踊った瞬間、事は一転する。
バコォォォォ………………ッ!!
「ぅあああ……………っ!?」
「なに…………………」
突然の叫喚と、辺りに崩れ落ちる人の山。
驚く大藤の視界に映った、反逆。
目の前で、バランスを崩した組員達が、次々に殴り飛ばされる。
「ガキの喧嘩かっ!!……………ボケぇっ!」
顔面を殴られ、血飛沫を上げる者もいれば、回し蹴りを食らい、顎から鈍い音を出し跳ね飛ぶ者もいる。
そして、ナイフを持っていた組員は、手首を掴まれ桜井の膝で甲を叩き蹴られると、そのまま一本背負いの様に、床へと頭から落下した。
「ぅがぁ……………っ」
今が本気か、まだ余力を残しているのか。
とにかく、桜井は強かった。
組員達に襲われた時、素早い反射神経で身を屈め、長い足でそれらの足首辺りを一気に蹴飛ばすと、瞬時に狙う順番を決めた。
こんな状況で悩む暇はない。
それを、無意識に反応する身体でやり込めているのだから、強ち実力が過大評価でもないと言える。
「俺は、腐ってもてめぇを捨てたりはしねぇ!!幾らでも相手してやるから、かかって来いよっ!!」
残る半数の組員を見渡す桜井の覚悟。
拳が痛くない訳がない。
全く痛手を負ってない訳がない。
でも、引きたくはない自分がいる。
守りたいから。
自分自身も、大和も。
あの目を……………ガッカリさせるような男にだけは、なりたくなかった。
カチ……………………
ざわつく室内に、微かに掠めた重い弱音。
組員達の足が止まり、視線は中央に構えるデスクの先へと注がれた。
「………………………親父」
睨む桜井の瞳が、その覚悟をより強固なものへとさせる。
黒い異物。
あんたは、ソレを握るのか………………。
ソレ。
手にした大藤の顔が、冷たく無機質な魔物に見えた。
「じゃあ、見せてもらおうか…………………お前の根性は、幾つの穴まで耐えられるんだってなァ」
幾つの穴。
人は、人だ。
物じゃない。
バァァァァ………………ンッ!!
「守谷さん、そこどいてもらいますか?」
「中に、桜井達がいるのはわかってるんです。長く出て来なければ、自分達も行くように親父から言われてます…………………通させて下さい」
桜井がたった一人の戦いを選び、ケンジが命を懸けて竜童会へ出向いた頃、守谷は守谷で身体を張っていた。
徳新会ビルの3階。
組長室へ上がる階段の前で、多くの組員に詰め寄られながらも立ち塞がる姿。
4階の様子がおかしいと、集まって来た組員達を止まらせる守谷がいた。
当然、周りの目は訝しげに鋭くなる。
「こんな真似して、いいと思って……」
「桜井は桜井で、大事な話をしている。邪魔はするべきじゃない………………」
「守谷さん…………っ!」
苛立つ組員達の大きくなる声。
無理もない。
自分達の親の命令は絶対だ。
だが、一人で戦っている桜井を想うと、それ以上に胸が痛い。
「頼む、お前ら………………」
自分が助けてやれたら、どんなにいいか……………。
組員達へ頭を下げる、守谷の苦しい胸の内。
大藤とは、長い付き合い。
守谷は、大藤が組を立ち上げた頃からの仲間であり、ずっと共に走って来た同志。
出来る事なら、未来ある桜井と大藤には、これからも組の為に動いて欲しいと願ってた。
まさか、いきなり現れたマフィアのせいで、こうも道筋が狂うとは。
「しかしっ……………ここで行かなければ、皆が親父に咎められます!」
「お咎めなら俺が……………」
「たっ、た、大変です……………っ!!」
大変です………………?
緊迫した空気が張り詰めていた3階に、突如若い衆が血相を変えて飛び込んで来る。
集まっていた組員達も、全員がそちらへ目を向けた。
「大変って、どうした?」
額には、酷い脂汗。
随分と動揺した様に、訊ねた守谷の脳裏に過る、一つの可能性。
まさか…………………。
「いや………………本当に、そんな事が………」
あれば、奇跡。
奇跡だ。
だって、向こうは世界が違う。
「りゅ………竜童会の連中が……し………下にっ!!!」
世界が、違う。
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