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買う喧嘩(やや★)
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無駄に売る必要はない。
名目を付けるなら、売らせればいい。
買ったが最後、勝つのは此方。
バァァァァ………………ンッ!!
「若…………………っ」
徳新会事務所ビル。
目の前に車を乗り付け、降りてきた大和達の耳に届いた銃声。
間違いなく、ビルからだ。
雨もようやく小降りになる中、砦を見上げる高橋は、後ろを歩く大和の方へ振り返る。
「ああ…………………」
険しい表情を晒し、前を見る大和の鋭い目付き。
湊…………………!
逸る気持ちは、否でも足を先へと急がせる。
無事でいてくれ。
無事でいてくれ。
願う事は、もうそれしかない。
「明石………………お前は、ここにいろ」
「は……………………」
そして、自分達を案内してきたケンジを呼び止め、大和はその身体を突き放した。
「ええか、お前は俺らとは関係ない。二度と側に近寄んな…………………湊は、必ず助けたるから」
「若………………頭………」
見れば、高橋や伊勢谷もこちらに顔を向け、僅かに頷いてる。
俺らとは関係ない。
それって…………………。
「俺はただ、湊に会いに来ただけや」
救うべき者を知るリーダーの姿に、胸詰まる。
湊を助けたら、終わりではない。
組を裏切り、追われる事を覚悟してまで来たケンジへ、大和が魅せた心意気。
年齢なんて、無意味だ。
言いたい事だけを口にし、自分の横を通り過ぎて行く大和が、立派な若頭にしか見えなかった。
「あ………………ありがとうございます………っ」
ケンジは立ち去る3人の背中を見つめ、深々と頭を下げた。
下げた視界に映る、自分の格好。
天辺を行く大和達と違って、金のない若手のなんと安っぽい服装か。
「汚ね…………………」
なけなしの金で買ったその服は、見事にずぶ濡れで膝は土下座の証にと汚なく、生地はドロドロにすり減り黒ずんでいた。
こんな汚ない格好でも、話を聞いてくれた。
下っぱなんて、組にいれば大して相手にもしてもらえなかったのに。
「サクさ………………どうか、ご無事で…………っ」
下がる頭の果てしなさ。
何でも出来る。
必死になれば、何でも出来るんだ。
それをするかどうかは、本人次第。
今日の感謝は、きっと一生忘れない。
そう誓うケンジの頭は、大和達の姿が消えるまで下がり続けた。
ガンガンガンガン……………!!
けたたましく叩かれる、ドア。
徳新会事務所入口。
大和や高橋を後ろに構え、伊勢谷が激しく扉を揺らす。
当然、徳新会の組員達は、何事だと慌てて飛び出して来る。
ガチャガチャッ……………バンッ!
「なっ……………何じゃお前らァ!!?」
ザッと見て、10人程度。
どれも安げな服装に、質の悪い金のアクセサリーをこれ見よがしに露骨に付ける。
どう見ても若手と取れるそれらを睨み、伊勢谷は怯むことなく口を開く。
「おい、ここに桜井言うんがおるやろ?俺達は、その桜井に用があんねん………………悪いけど、出してくれへんか」
「はっ……………何言ってんだ、テメェ!!ウチがどう言う所かわかってんのかっ!!」
誰だ、コイツら。
組事務所に臆する事もなく現れた、突然の訪問者。
それも、顔を見るや、桜井を出せと言う。
出せるワケがなかろう。
状況も状況だが、たかだか3人程度の人数で何しに来た!?
「ぶさけてんじゃねぇぞ!シバかれてぇかっ!!」
「上等じゃ、コラァッ……!!」
徳新会の組員達は、狭い入口に犇めき合うように身を乗り出し、我先にと罵声を飛ばす。
弱い人間ほど、よく叫ぶ。
とりあえず声を荒げ、凄みを効かせればビビると思っているのだから笑える。
「あ?耳悪いんか?………………俺は、桜井出せ言うとんや。何度も言わさすな」
しかし、若手レベルの凄みが身に応える筈もなく。
それをまた、輪をかけて挑発するように、伊勢谷は言葉を被せる。
「きっ…………貴様、ふざけんなよっ!!」
ガッ……………………
思わず、拳の一つも出るもんだ。
我慢しきれなかった組員の一人が、伊勢谷の顔面目掛けて腕を振り下ろす。
微かに血の滲む唇。
伊勢谷は殴られた勢いで顔を横に向け、その滲む血をゆっくり拭うと、少しだけ口角を上げた。
「……………………見ました?高橋さん」
「ああ………………見たわ」
見たわ。
後ろで、それを眺めていた高橋の落ち着いた返事。
下っぱを乗せるのなんて、本当に容易い。
結果を出す事で精一杯で、血気盛んな勢いゆえ、突っ込む事ばかりが先に出る。
「は、はあ?な、何を……………」
殴った組員は、理解不能な反応に首を捻った。
なんだ、この怪しい雲行き。
まるで、殴られるのを待っていたかの様に、目の前の男達は笑ってる。
周りを取り囲もうとした連中も、一体何が起きたのかと固唾を呑んで注目し始めた頃、話は瞬く間に動き出す。
ドガァァァァ……………ッ!!!
「ぐわぁぁ……………っ!?」
突如、はね飛ばされる身体。
ガシャーン…………ガタガタッ!!
「柴田ぁ……………っ!」
伊勢谷を殴った筈の組員が、いきなり飛んできた足に鳩尾を蹴られ、玄関の奥まで消えてった。
「な、な、な……………」
「喧嘩、買わせてもらうで」
喧嘩!?
ブッ飛んで行った柴田と言う男に気を取られていた組員達は、背後から聞こえて来た声へ一斉に振り向いた。
「ウチの組員、殴ってくれた礼じゃ………………関西竜童会が存分に相手したるから、覚悟せえよ」
関西竜童会。
そう名乗る憮然と佇む姿に、不屈さあり。
大和、ようやく桜井の元へ到着す。
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