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援軍(やや★)
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見える範囲が、相手ではない。
問題は、見えない範囲の規模。
「はあ?竜童会ィ!?こんな時に悪い冗談かっ!」
悪い冗談。
そう言いたくなるのも、無理はない。
徳新会ビル3階。
守谷に詰め寄っていた組員達の所へ、駆け込んで来た仲間の驚くべき報告。
『りゅ………竜童会の連中が……し……下にっ!!!』
竜童会の連中が、下に。
下に?
あの竜童会が……………?
まさか。
「いや、冗談じゃ………………」
「そんな事あるわけねぇだろっ!何で、竜童会がウチに来るんだよっ!」
世の中、ヤクザなんて山ほどいる。
関東だけでも、何百と言う組が犇めき合い、鎬を削る世界。
降っては湧いて、消えていく。
それが、知らぬ間に行われている裏社会で、繋がりもない天下の組が、何故こんな中堅クラスの組織にやって来るのか。
ましてや、都合悪く今上では、その竜童会に絡んだ話が繰り広げられてる。
タイミング良過ぎるだろ。
ケンジが、桜井の為に走ったなんて思いもしない組員達は、口々に突然の報告を突っぱねた。
ただ、それの理由がわかる守谷を除いては。
「ちょっと待て……………下には、何人来ているんだ」
「守谷さん……………っ」
ケンジの奴、ヤりやがった………………。
桜井を救いたいと言う、必死な想いが国内最大組織を動かした。
4階へ上がる入口で、組員達のやり取りに口を挟んだ守谷は、久し振りの昂りを覚える。
無茶だと思ってた。
下手打てば、ケンジが危ないのではないかと。
いきなり現れた他所の組員に、優しくしてくれる組織なんてない。
それも、自分達への屈辱的内容。
極道の世界なら、大藤への見せしめにでもされるのが関の山。
なんて事だ。
まるで、国が動いたかのような衝撃。
そして、守谷に竜童会の人数を聞かれた組員は、動揺した様子でそれに答える。
「さ、3人です………………」
3人。
「はあ?たった3人……………!?」
そう、たった3人。
それを聞いた途端、チラホラと失笑が沸き起こる。
ここには、下でも50人近くはいる。
「馬鹿か………………3人って、何だよ。ウチも随分ナメられたもんだな」
「何が、竜童会だ……………ンなもん、1階にいる連中だけで片付いてしまうわ」
「でも、なんか雰囲気が半端ないですよっ……………普通じゃないと言うか、その……」
守谷が返す前に、周りは早くも勝ったと言わんばかりに、ニヤニヤと笑みを溢した。
何が出来るんだ、3人で。
「………………竜童会をナメん方がいい」
ザワ……………………
「え…………………?」
勝ち誇った気分に、水を差す。
若い者達の天下を軽んずる姿に、守谷だけは一人渋い表情を見せる。
「竜童会は、組長の嵩原からして別格の強さを誇る。ただの組員とて、他所では組長でもおかしくないレベルだと耳にする。雰囲気が半端ないと言うのも、強ち大袈裟ではないかもしれんぞ」
長くいれば、色んな話が入ってくる。
駆け出しの頃から、竜童会は既に天辺で、常に勝った話しか聞いた事がない。
特に、嵩原が組長になってからのそれは、群を抜いて他を寄せ付けなかった。
今の力は、確実に昔よりも上がっている。
もしかしたら、たった3人でも…………………。
「ぷっ………………守谷さん、オーバーで……」
ガシャァァァァンッ……………!!
「ぐはぁぁ………………っ!」
先輩守谷の忠告も、若手の笑い声に流されようとした途端、激しい破壊音と苦悶の声が、突如3階の広い踊り場に響き渡る。
「は……………………」
意表を突かれた、衝撃。
振り返った組員達の目に、まざまざと焼き付けられる光景。
「うっ……………ぐ……ぅ」
面前には、横たわる二人の仲間。
出血などは酷くはないが、どう見ても立てる状態には見えなかった。
「なっ…………何やってんだ!?お前ら……っ!!」
叫んだ所で、返事はない。
ただ転がって、息をするのもやっとのよう。
誰もが動揺を露にし、倒れた組員達に駆け寄ろうと身を乗り出した。
その時だった。
ガサ…………………
にわかに耳へ掠める、足音。
決して多くはない、むしろ少ない。
しかも、ゆるりとそれは近付いて来る。
「ああ………………若、高橋さん。どうやら、ここが最後みたいですね」
組員がぶつかった為に崩れた荷物を踏みつけ、姿を見せた男達。
「あ……………………」
「まさか、コイツら……………」
スラッとした体型に、あまり乱れのない上質なスーツ。
涼しい顔で魅せる容姿の美しい事。
「ほな、伊勢谷………………一気に片付けんぞ」
軽くネクタイを緩め、自分達に動じもしない高橋の眼差しが、ゾクッと背筋を凍らせた。
竜童会をナメん方がいい。
今更、今更になって、守谷の言葉が脳裏を過った。
「若、少しだけ待っとって下さい」
「………………任せた」
任せた。
その上、一番若い奴が、一番のトップ!?
眼光鋭い男達の後ろで、構える少年のなんとも憎たらしい存在か。
「お、おいぃっ!!ふざけんなよっ!!お前ら、何もう済んだ様な顔してんだよ!!」
「そうだっ!!この人数わかってんだろうなァっ!20人は越えてんだぞっ!そう易々とヤられてたまるかァァ…………っ!!」
徳新会の組員達は、瞬く間に焦り出す。
20人は越えてる。
明らかに、此方の方が上回っているんだ。
なのに、何故だ。
彼らのビクともしない佇まいに、嫌な汗ばかりが吹き出してくる。
「………………おや、たった20人ほどですか?では、やはり連れて来すぎましたか」
はい…………………?
たった20人ほど。
つい今したがた、自分達が馬鹿にしていた台詞が、いとも容易く打ち返される。
誰だ。
「……………………あ?」
顔を強張らせる徳新会の組員達を横目に、背後へ視線を向けた大和が声を上げる。
「遅くなりました、若頭…………とりあえず、行きたいと言った組員の中から、50人連れて参りました」
組員、50人。
上品な笑顔で、酷な事を言う。
形勢逆転である。
高橋の指示の下、大和達の後を直ぐに追った男が、3階に足を着く。
そうして、話の通り、それを先頭に道を埋める黒い群れ。
「山代…………………」
「はい………………あとは、お任せ下さい」
援軍、来る。
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