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逆転
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『助けに来たで』
その姿に、部屋は一瞬で静まり返った。
大和達の鮮烈な登場は、見る者達の目を奪い、なんとも言えない存在感に言葉を失う。
誰だ、コイツら。
中堅クラスの組員達が、竜童会レベルの幹部を目にする事なんて滅多にない。
劉組織から渡された写真を見ていない連中は、突然現れた3人が誰かもわからず、放心状態。
しかも、着ているスーツの質も、それを纏う外見も、自分達の様な一見チンピラ風情とは訳が違う。
なんて画になる光景か。
多くの組員が至る所で倒れ、これからまた桜井を襲おうとする男達がいるにもかかわらず、高橋や伊勢谷は周りに動じる事なく、大和の道を作ってる。
凛とした美しさ。
ヤクザが、美しい?
隙のない、余裕さえ感じられるそれの姿勢に、風格さえも漂った。
ただ…………………。
「お……………お前は……………」
大和の顔を知る大藤だけは、周囲とは異なる緊張感に苛まれる。
何故、このガキが………………。
このガキが。
チラッと眼下に映る、一枚の写真。
今まさに、写真に載った顔がそこにいる。
こんな事って、あるか。
桜井に殺らせようとした竜童会若頭が、どうして目の前に現れたんだ。
疑問は重なる。
そして、考える。
自分の身を守る術を……………。
「……………………冗談じゃねぇ」
喉をようやく通った唾が、やたらと引っかかる。
若頭を狙ってるなんてバレたら、自分の命が危ない。
張り詰めた空気の中、大藤は前を睨んだまま、ゆっくり手元を移動させながら、写真を隠そうと指先をまさぐった。
これを、見せるわけにはいかない。
自分の狙いが、既に大和達へ知れていると思っていない大藤の焦る胸の内。
守るべきは、我が身だ。
「…………………湊、大丈夫か」
『お前は………………』
大藤の呟きに、大和は僅かだけ目をそちらへ向けた。
でもそれは、一瞬のこと。
大和の視線は、直ぐに桜井の腕へと注がれる。
「ハァ…………ッ……大和…………お前、何で……」
「喋んな…………詳しい事は、後で話す。それよりも、腕を……………伊勢谷」
「はい……………っ」
長袖の先から覗く、真っ赤な手の甲。
流れてきた血が、止まる事なく床を目指して落ちていく。
酷い出血。
先の銃声から考えても、それが何の傷からかは見当がついた。
相当、痛いだろう。
服に空いた穴が、人の身体を貫いた事を教える。
大和は、痛みに耐える桜井の身体へ優しく触れ、自分を警護する伊勢谷を呼びつけた。
「ちょっと痛いけど、我慢せえよ」
直ぐ様、伊勢谷は自分のネクタイを外し、桜井の腕に手早く巻いていく。
「いっ…………………」
耐えてはいても、強く巻かれた為に走り抜ける激痛には、さすがの桜井も顔を歪ませた。
もう、腕がもげるのではないかと思う程、激し過ぎる痛みに感覚がおかしくなる。
それでも、大和達が現れた事は、桜井の心に大きな光を照らし出した。
自分は、一人だと腹を括っていた。
生きて抜け出せるかはわからないが、誰も巻き込んでは駄目だと思った時点で、一人だと。
それが、自分の為に来てくれた。
「…………………すまん」
囁くものが、自然と溢れる。
嬉しい。
こんなに、人の心に感動したのは、初めてかもしれない………………。
「ちょっと待て!一体、これは何の真似だァっ!ここは、徳新会……………俺の拠点だぞ。いくら竜童会の人間だと言っても、暴挙にもほどがあるっ!!」
だが、それを見る側は、そんな情すら消えたのか。
桜井に差し伸べられた手の苦々しい眺めに、大藤が声を上げた。
事務所に乗り込まれた挙げ句に、面前での悠然とした態度。
大藤にしてみれば、土足で縄張りに押し入られ、愚弄されたも同然。
自分の身は守りたいが、組員達の手前、それを見過ごすわけにはいかなかった。
「りゅ…………り、竜童会ィィィ!?」
しかし、大藤の言葉に、自分達に起きた現実を知った徳新会の組員達は、一斉に驚愕した。
やっと知れた連中のあまりに破格の名に、イヤでも身体はたじろぐ。
竜童会。
桁外れ過ぎて、想像の枠をも超えた。
それの様子を横目で見る大和は、組員達の動揺を気にも止めず、憮然とした態度で口を開いた。
「高橋……………………」
「……………………はい」
高橋。
その一言で、高橋は大藤の視線から大和を消すかのように、真正面へと足を進める。
「それは失礼致しました、徳新会組長大藤殿。てっきり、挨拶も必要ない間柄に収まっとんかと………」
「何…………………」
「先程、言わはった事…………………我々が名乗らんでも、既に竜童会やとご存知のようでしたから」
「…………………っ!!」
ニヤリと口元を緩める高橋に、大藤の表情が引きつっていく。
竜童会やと………………。
そうだ、今自分は叫んだ。
『いくら竜童会の人間だと言っても…………』
だと言っても!
「顔……………ようわかっとるやないか」
高橋の声が、低く大藤を捉える。
関西ならともかく、関東で竜童会の人間を見分けるのはまだ難しい。
身から出た錆か。
引きつった顔にみるみる流れる汗が、全てを語る。
分かってしまった、顔。
形勢は、逆転す?
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