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18歳以上ですか?
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関東支部
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全国に、約2万超。
関西竜童会が抱える、組員の総数である。
言わずと知れた、その規模全国一。
今回、そこから約七千人の組員が、関東支部長を引き受ける大和の下に集結する。
約七千。
先に潰した、関東一の喜多見組を超える為、嵩原がそれ以上の人数を投じる事を決めた。
約七千。
大和にとって、それだけの数を抱える事は、勿論初めてとなる。
「オェ…………………」
大和、朝から嘔吐く。
まだ、17歳。
組員の前では威張っても、人生初の責務に、さすがに胸焼けがする。
「おい……………大丈夫か、大和。お前が嘔吐くて………昨日晩、ヤり過ぎたかな…………?」
はい?
ヤり過ぎた。
洗面台で顔を伏せる大和を見つめ、お父ちゃん、昨晩の熱いLOVEを反省す。
今日の祝い事を考え、昨日は呑みまくり。
ほろ酔い気分も加わり、酔った大和を抱え、ベッドIN。
めちゃめちゃ燃えました。
え、そこですか………………お父ちゃん。
「ハッ……………まさか、出来たんか!!」
ついに………………?
「俺……………お父………ん?いや、てめぇのガキがガキ産むんやから、おじいちゃんになるんか?………あ?ややこしいな…………」
確かに、ややこしい。
あなたの頭が。
「何の話じゃっ、ボケッ!人が、ナーバスになっとる横で、惚けた事抜かすなっ!誰が、ガキ産むんねんっ……………誰がっ!!」
ええ、誰が。
わかってましたけど…………戸口に立ち、真顔で口を押さえる父親に、大和キレる。
ベッドでのラブラブムード、一瞬で砕け散った。
「ああ、クソ…………隣で下らん話聞いてたら、胸焼けよりムカつき具合が上回ったわ。もうええ………この苛々背負い込んで、組員らごと睨み返したるわっ!」
どうせ、狙うのはここじゃない。
父親の立つ天辺へ行こうと思ったら、たかだか七千がなんぼのもんじゃい…………!!
惚けた父親のお陰で、大和のナーバスも見事に吹っ飛ぶ。
大和は、ギラギラした目付きで顔を上げ、大きく深呼吸をした。
大きく………………あれ?
吹っ飛ぶ?
吹っ飛……………んだな。
「………………っ!!……………親父っ」
ハッとした様に横を向き、大和は父親を見る。
軽く腕を組み、微笑む父親の男前度が、今、百倍。
「あ……………やべぇ……………」
…………………好き。
みるみる赤くなる顔を手で触り、大和の瞳は、乙女に成り変わる。
「アホ、どんだけ単純な頭しとんねん。わかりやす過ぎて、呆れるわ」
喜怒哀楽、ハッキリしてますから……………お父ちゃんの愛息子は。
そのハッキリした息子を見つめ、嵩原は苦笑いしながら、頭を優しく撫でてやった。
「だっ……………だって……………」
俺を奮い立たせる為に、わざと……………。
最近になって、やっと気付いた。
周りの人間の心が、どこか悪い方へ傾きかけた時、この人は躊躇う事なく自分を三枚目へと落とす。
さっきみたいに惚けた事を言って、平気で笑われ役になり、突っ込まれながらも空気を変えていく。
平気で。
本来なら、簡単に冗談さえ言い合えない存在なのに。
「ええか、大和…………俺や高橋に弱味を見せんのは、かまへん。いくらでも見せ………人間、片意地張っとるだけじゃ、いつかは壊れてまうからな。でもな、他の連中にはそないなん通用せんぞ…………皆、少しでも上を目指そうと必死なんや。それに負けたらあかん…………芝居でもええ、上に立つ以上は、嘘でも胸を張り続けたれ」
「親父………………」
頭に触れる、父親の手の温もり。
ヤクザの世界で、カリスマ。
嵩原竜也が父親である事が、大和に対して吉と出るか、凶と出るかは、まだ答えは見えていない。
でも、現状は明らかに救われている事の方が、遥かに多い。
大和は、視界を埋める男前に、ただただ見とれた。
「しっかりせぇよ。お前は、この俺が選んだウチの若頭や……………誰にも負けへんもん持っとんねん。そこだけは、てめぇのガキやからって、甘んじた覚えはないで」
天辺に立つ父親の叱咤に、胸が詰まる。
自分の目を信じて、たった17歳のガキに若頭を任せてくれた有り難さは、一言の感謝だけでは収まりきれない想いが募る。
「お………………親…………」
自分を見つめる父親の胸へ額を付け、大和はその手にソッと我が手を重ねた。
本当に、父親が好きだ。
好きで好きで……………父親を選んだ事に、全身が嬉しさに包まれる。
「…………………頑張ろうな。お前なら、やれる。何処におろうと、何をしてようと…………俺の心は、常にお前と共にあるから……………忘れんでな」
「……………ぅん…………うん、忘れんよ……………ありがとう、親父」
空いた手を背中へ回し、やんわりと擦ってくれる仕草に、キュンとする。
頑張れる。
それだけで、頑張れる気がする。
好きな人の言葉は、自分でも驚くほど、素直に心へ入り込む。
多分それは、その好きな人が、誰よりも尊敬出来る人だから、尚更かもしれない。
自分を抱きしめてくれる父親の胸に、大和は甘えた様に身体を沈めた。
甘えた様に……………。
「………………コホン…………お取り込み中、申し訳ありません。そろそろええですか?……………お二方」
…………………へ。
LOVEが辺りを埋める、マンションの廊下。
二人の世界にどっぷり浸かったカップルが、現実に引き戻される。
現実に。
「あ……………あ、あ…………」
ですよね。
こう言うの、一番恥ずかしい。
言葉もまともに出ません。
唖然とするお父ちゃんは、まだいい…………そこへ甘えまくってた大和に至っては、顔から火が噴くよう。
「たっ…………高橋……………っ!!」
恥ずかし過ぎて喋れない大和に代わり、お父ちゃんが叫びます。
はい、高橋に。
「すみません……………何度もお声かけしたんですが、全く聞こえてへんみたいだったんで、勝手させてもらいました」
やや目のやり場に困りつつも、大和の有能な右腕、高橋登場。
関東支部立ち上げの席へ主を連れて行く為、大和を迎えに来た。
「おま………………」
「親父……………もうすぐ、錦戸らも迎えに参ります。若にお優しいのもええですけど、お気を引き締め下さい」
しかも、有能な右腕は、嵩原を一番に牽制する。
「……………え…………」
「今日は、若が大事な日や言うん…………お分かりですよね?錦戸らに見られたら、どないしはるんですか」
柔らかな物言いの中に、刺が二百本は見える。
嵩原は目を擦り、高橋を見直した。
「…………………高橋、怒っとる?」
「は?……………私が、何をです?」
怒ってるな、コレ。
大和とイチャLOVEしていた姿に、完全に怒ってる。
何せ、高橋の『大事な若』ですから、大和は。
「いえ…………気のせいです……………」
大和へ歩み寄る高橋を眺め、嵩原は抵抗を諦める。
触らぬ高橋に、祟りなし。
不機嫌な高橋程、恐いものはない。
「た、高……………俺……………」
そんな高橋を間近にし、大和はいまだ赤い顔。
お父ちゃんに甘えてた所なんて、見られたのお初です。
こっ恥ずかしくて、妙な汗をかく。
「おはようございます、若。今日の日が不安なんは、ようわかります……………でも、心配は要りません。若は、若らしゅうして下さったら充分です。若の良さが、きっと皆に伝わる筈ですから…………」
然り気無く大和のネクタイを直し、高橋はいつもの綺麗な笑みを浮かべた。
「………………高橋………………」
ずっと、大和を導き続けてくれた笑顔。
その変わらない笑顔に、大和の唇は真一文字に締められた。
少し視線をズラせば、父親も目を細めてる。
最高の味方が、肩を並べ、見守ってくれている。
この心強さと言ったら、自分は何を不安になる必要があろうか?
「さあ、行きましょう………………若……………関東支部及び、関東全域70ヶ所の事務所で、組員達が若の言葉を待っています」
関東全域70ヶ所。
関東喜多見組を制圧した後、竜童会は莫大な資金を使い、一気に大仕事を成し遂げる。
それは、たった数ヵ月で、必要な土地を買い占め、急ピッチで事務所の建設を完成させる事。
関西本部に次ぐ規模の支部と、関東全域70ヶ所の事務所を、だ。
何故なら、それをする事で、竜童会は自分達がそれが可能なだけの金と力を持っている事を、関東のヤクザ組織へ知らしめる事が出来る。
そして、その思惑は見事に成功する。
今日、大和の緊張以上に、関東のヤクザ組織は戦々恐々としている。
関東に、竜童会が本格的に乗り込んで来た。
裏社会に生きる者達は、誰もがそう囁き、その身を震わせているからだ。
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