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謎のスポンサー
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とにかく、金と愛はある。
「おい…………何や、アレ。どこぞの組長か」
目の前で、ヤクザを言い上げる、堅気。
手にした煙草の煙を吐き出し、嵩原は突っ込む。
わかります、その気持ち。
男の登場で、周りの様相は見事に一転した。
嵩原への熱い眼差しから、まさに氷点下。
睨まれた組員に関しては、最早見るも無惨に顔は青ざめ、妙な脂汗をかく。
「竜也ァ……………竜童は、礼儀がキチンと行き届いとんのと違うんかぁ。ガッカリやの…………俺が、一から鍛え直したろか」
『竜也』
誰もが唖然とする景色を見渡し、イケメン男は悠然とそう呼び捨てにした。
仮にも、天下の組長様。
それを、竜也。
許されるのは、彼ただ一人。
「アホ言え……………お前に鍛え直されたら、組員がヤクザ辞めるわ」
そして、呼び捨てにされた嵩原もまた、怒る事もなく、半笑いしながら前へと足を進める。
ヤクザを辞める。
どんだけ恐いんだ、この男。
「はン………………それでも、竜童の名背負うとる極道者か。根性ないの、最近のヤクザは」
「お前の目が、厳し過ぎんねん」
「厳しい世界に生きとんやろ?厳しゅうて当然や」
極道の世界で、誰もがその名に怯む竜童会を前に、全く動じない。
いや、それよりもその上をいく、厳つさ。
堅気が、ヤクザに厳しさを求めてる。
さすがの高橋や錦戸も、これには黙り込む。
とりあえず、親父に任せよう。
「大体、来るなら来るて、連絡位入れろや。いきなりやから、周りがビビるんやぞ…………京」
任された嵩原は、慣れた様子で男をあしらう。
京。
嵩原がそれを口にすると、厳ついイケメンの目は僅かに細くなった。
なんだか、嬉しそう?
ノーネクタイで上質そうなスーツを着こなし、然り気無く身に付けている物が、かなりのハイブランド。
嵩原から『京』と呼ばれ、微かに笑みを浮かべる姿は、さっきまでの厳つさが嘘の様に、美しいものへと変貌した。
「しゃーないやろ……………これでも、超多忙なん無理矢理時間作ったんやからな。アポ無し位、多目に見ぃや」
超多忙。
真っ白なリムジンに乗り、そつのない運転手、後ろには、いつの間にか賢そうな秘書らしき男が、主である京の側に立つ。
ただ者ではない雰囲気が、超多忙と言う台詞に現実味を伺わせた。
「そないに忙しいなら、無理して…………」
「ンな訳いくか……………今日は、大事な祝い日やで」
大事な祝い日。
そう言って、男が辺りへ目を向けた時だった。
「京之介ぇ…………っ!!」
一際大きな叫び声が、空高く響き渡る。
「大和……………っ!」
多くの組員の間を潜り抜け、慌てて出て来た大和の姿に、男の表情は一気に緩む。
自分の方へ歩いてくる大和に駆け寄り、男は皆が見ている面前で、その身体を思い切り抱きしめた。
「会いたかったでぇっ!!息子ォ!!」
え、息子?
「コラ、待て………公の場で、何、人の息子奪っとんな。紛らわしい発言すな」
大和を抱きしめる男を見つめ、つかさず嵩原は息子発言の間違いを指摘する。
大和は、歴としたお父ちゃんの息子です。
「あ?何言うとんや…………俺は大和がちっさい時からオムツ替えたり、風呂入れたり…………お前が手ぇ回らん代わりに親したったんやぞ。俺のガキに違いないやんけ」
「明らかに違うやろ。親代わりと、親は違う」
「違わへん」
「ちーがーうっ!!」
間に大和を挟み、ちっさい攻防始まる。
「もっ……苦し…京之介ぇ……親父もうっさいしぃっ」
「ほれ、見ろ!京っ………大和、嫌がっとんぞっ!」
「嫌がってへんわっ…………お前がうるさい言うとんじゃ!」
どっちもだろう。
抱きしめられた大和は、レベルの低い争いに巻き込まれ、京之介の腕の中で、もがく。
そこに、組長の威厳も、厳つい堅気の姿もない。
周囲は、ただただ呆気にとられて、傍観す。
「あの………すみません。あちらの方は………」
一部始終を見定めた山代、その存在感に圧倒されながら、ようやく疑問を投げ掛ける。
竜童会唯一の関東人。
当たり前だが、京之介なんて知るよしもない。
京之介、誰こいつ?(すみません、山代はこんな失礼な物言いはしません……)
まるで嵐の様な登場。
駄々ならぬ雰囲気に、言葉を失う。
「ああ…………山代は、初めてやな………安道さん」
「安道……………さん………?」
山代の疑問に、苦笑いする高橋。
安道さん。
「安道…………」
仮にも、関東で組長を張ってきた山代は、その苗字を聞いた事があった。
安道…………自分が思う人物と同じなら、その名は確か…………。
「組長くらいしとったら、聞いた事位はあるか……」
「あ、いえ……………詳しくは知りません。ただ、名前は何度か耳に……………政界にも財界にも、あらゆる所へ顔の利く大物だと…………」
ヤクザでも、気を付けなくてはならない。
昔、組長になりたての頃、堅気の企業と組員が揉めた時、世の中には手を出してはいけない人間もいると、菱川組の親父に教わった。
思い返せば、そこに連ねられた名前の一つが、『安道』だった。
そう、安道。
安道……………。
「安道京之介……………ウチの筆頭ダンベエや」
「え………………」
ダンベエ。
所謂、堅気のスポンサー。
世間一般には許されないが、見えない部分でそれは罷り通っている。
権力や非社会的な世界を好む成金達は、自分達の気に入った組に有り余った金を流し、それが世のヤクザを支えていると、優越感に浸る。
中でも、カリスマ嵩原率いる竜童会は、特に人気が高い。
断っても断りきれない程、声を上げる金持ちは後を絶たない。
それらをはね除け、安道は筆頭。
「筆頭って…………」
「年間のウチの収入の、約4分の1……………莫大な資金を送って下さっている」
「4分の1…………っ!?」
思わず声が大きくなる、山代。
2万を超える組の、4分の1。
多分、数百億は下らないのでは…………。
「しかも、親父の幼馴染みであり、ご覧の通り、若を我が子の様に大切になさっておられる」
カリスマ嵩原の幼馴染みが、安道。
大物は、どこまで大物を呼び寄せるのか。
「…………ええか、山代。見とったらわかるやろうけど、安道さんは厳しいお人や。厳しいけど、親父が信頼するだけあって、筋は違えへん。言うだけの事を、されて来たさかいな」
「はい、それは…………」
見てたらわかる。
嵩原や大和と並んだ時の、安道のオーラに、何の違いもない事が。
「でもな……………せやからこそ、あの人の前へ立つ時は気ィ付けや…………」
「高橋さん………」
大和へ笑顔をむける安道を見ながら、高橋の目は鋭くなる。
「あの人に、嘘は通用せえへん………下手に見繕うたら、逆鱗に触れんで。そうなったら、親父も簡単には止められへんからな」
親父も。
そう言う男、安道京之介。
スポンサーとて、やはりただの者ではない。
「強い所には、強い者が集まる………トップを走る言う事は、常に戦場や」
それが、全国一。
組自体が、戦いの場。
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