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唯一の関東人
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関西竜童会。
その名の通り、関西を拠点とした全国一の組織。
関西を拠点とした。
『西地区から、出て行って下さって構いません』
標準語が、異質を放つ。
ザワザワ……………………
「…………………山代」
会場に飛び交っていた叫び声が、一瞬で黙った。
それが、どんな手を使ったかにせよ、名だたる幹部達を前に黙らせた事実は、記憶に残る。
大和は、自分より少し離れた場所で、幹部達と対峙する覚悟を見せた山代へ、目を向けた。
まさか、ここで山代が動くとは思いもしなかった。
山代は、まだまともに幹部達と話した事がない。
顔を見るのも、佐々木の葬儀以来の事。
普通なら、今後の事を踏まえ、自分の印象を悪く見せまいと、こんな日位は大人しくしているものだ。
「お前……………何言うてるか、わかっとんのかっ」
関東で組長をしているとは言え、明らかに年下である山代の挑戦的な発言。
勿論、幹部達はナメられたような気がして、顔を引きつらせ、怒りを露にする。
「何……………?ええ、わかっています。皆様方が、私の下につくのがお嫌だと言われてたので、西地区から出て行って下さって構わないと、お伝えしたまでです。西地区は、ウチの組員と菱川組の者で何とか回しますから、ご心配には及びません」
「おっ…………お前なァ………っ!!」
顔色一つ変えない、落ち着いた様子で答える山代。
その姿が、一層と幹部達の感情を逆撫でした。
関東の、知れた規模の組長が……………!
幹部達の誰もが、そう思っただろう。
自分達は、もっと多くの人間を仕切って来たのに。
そう、多くを。
長い間、竜童会と言うマンモス組織の中で上を目指し、幹部までのし上がって来た皆にも、誇りはある。
……………何で、ワシらが下なんや!!
大和が連れて来たからと言って、素直に山代へ頭を下げる気には、どうしてもなれなかった。
「お前な…………何でしょう?この祝いの席で声を荒げ、嵩原組長が人事を一任された、若頭の考えが意にそぐわないと騒ぎ立てる皆様方の姿を見かね、失礼ながら口を挟まさせて頂きました。でないと、我々を信頼して支部を任せて下さった、嵩原組長に申し訳が立ちません………私なりに事を収めようと、皆様方のお気持ちを汲んだつもりでしたが…………まだ、何かございますか?」
何か。
支部立ち上げのお祝いムードが壊れ、瞬く間に幹部達の怒鳴り声へと変わっていき、嵩原の一任した大和の意向に反旗を翻す。
『嵩原組長に申し訳が立ちません』
結局、この場で一方的に騒ぐ幹部達は、一番大事にしている筈の、嵩原の顔を潰した様なものだった。
「さすが…………組長は、違う……………」
何十人もの幹部達を目の前にしても、全く怯まない山代の顔を上げた姿に、花崎は息を飲む。
何か。
幹部達は、言葉が出なかった。
「いや…………組長だからて、この面子とやり合う事は簡単やない………山代さんが、凄いんや。花崎………俺らも、根性入れなあかんな」
「伊勢谷さん……………」
高橋に、山代。
競う相手の、なんと大きな事か。
伊勢谷も花崎も、自分と肩を並べる存在のデカさに、これからの厳しさを垣間見る。
でもそれが、トップの組織。
甘んじる暇は、ないのだ。
「でも、残念です……………竜童会とは、男気溢れ、情に厚く、尊敬すべき嵩原組長の意志がお強い組だと、思っていました。まだ何も始まらないうちから、立派な幹部の皆様が、将来有望な若手の芽を摘み取るような真似をなさるとは……………嵩原組長の広いお心は、もう組員の皆様方には薄れてしまったのですね」
立派な幹部。
雄弁たる山代の言葉は、最後に幹部達も高く評して終わられた。
もう、止めでしかなかった。
今の竜童会において、嵩原はその象徴である。
象徴の意志が薄れたなんて、許されてはならない。
関西の中に、ただ一人の関東。
ここへ来た山代の決意が、会場中の男達の目に焼き付いた。
「……………親父の心は、竜童の心や。そう簡単には、消えたりせえへん」
返す言葉もなくなった幹部達を見つめ、大和が声を上げる。
「若…………………」
山代の喝は、竜童会の組員達に見た目以上に効いていた。
あれだけ声を張っていた幹部達が、嵩原の顔に泥を塗ったと意気消沈。
大和が手を差し伸べなければ、見るも無惨に落ちていただろう。
「皆、こいつらにチャンスを与えたってや。箸にも棒にも引っ掛からんかったら、俺が責任持って対処する。でもそれまでは、皆で支えたって欲しい」
「はい……………っ!!」
皆で。
この会場全ての……………いや、関東に乗り込んだ全ての組員で、制覇を成し遂げる。
山代や高橋を脇に据え、前を向く大和の頼もしさ。
嵩原や高橋が口を出さなくとも、山代が事を鎮め、大和がまとめた価値は、高かった。
ガタ…………………
会場の士気が、新たな熱で高まった頃。
静かに廊下へ踏み出した男が、一人。
「………………大丈夫か?……………花崎」
花崎。
「お…………親父……………」
窓から差し込む日差しを浴び、振り返る花崎の目は、微かに潤んでいた。
「アホ…………ヤクザが、何て面しとんねん」
そう言う嵩原の顔は、満面の笑み。
「す、すみません……………俺…………」
「ま……………えらいもん、見さされたらしゃーないか…………山代、格好良過ぎたしなぁ」
慌てて目を擦る花崎の頭をやんわりと撫で、嵩原は青く輝く空を見る。
「親…………………」
会場の盛り上がる声が、耳に痛い。
逃げてしまった。
花崎は、居たたまれなくて、逃げて来てしまったのだ。
自分と、高橋や山代との格の違い。
それを目の当たりにさせられ、苦しくなった。
幹部なんて、まだ早い。
経験を積めば積む程、その難しさがわかる。
怖くて、足が震えた。
「花崎………………無理頼んで、すまんな。でもな、お前には出来ひん事じゃないて、俺は信じてる」
「親…………父………ぃ」
廊下に響く、嵩原の優しい声に、涙が溢れる。
数年前、嵩原に憧れ、竜童会の門を叩いた。
がむしゃらに突っ走って来たが、大和に会い、山代に会い、上には上がいる事を知る。
4人の中で、一番若い花崎の苦悩。
自分を心配して、わざわざ出て来てくれた、嵩原。
久々に味わう嵩原の温もりに、花崎は溢れるものを止める事が出来なかった。
信じてる。
それは、深く心に染み込んでいった。
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