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離れても
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惹かれ合う心は、会えない時間をより燃やす。
この人だけ。
離れても、想いは繋がる。
「……………………はぁ……………………」
ブゥァァ……………………ン
ピッタリと閉められたエレベータのドアを見つめ、大和は小さな溜め息を漏らした。
「やっぱ高橋って、大人…………………」
当たり前だが。
何とか高橋の力になりたいと思った行動が、高橋の手に丸く収められる。
なんだ、俺。
『高橋』を、無駄に連呼しただけな気がする。
「アホやな……………………親父やったら、こんな時何言うてやるんやろ……………………」
引き出しが少ないと、開けても知れてる。
時間がない時、開けた瞬間に中身がグチャグチャ過ぎて、欲しいものが見付からず焦る、アレ。
整理しとけば良かったー!!
てな叫びも、後の祭り。
高橋の事、自分だって大事にしたいのに、ガキが手にした物は、せいぜい使い古した消しゴムみたいにちんけな代物。
要は、役立たず。
「ガキって………………………」
出来た大人の前には、本当に無力だ。
「こんな俺で、高橋はホンマに幸せなんかな」
時々、考えたくはないが、ふと考える事がある。
高橋は、父親と一緒の方が幸せなんじゃないかと。
明らかに、高橋ばかりに苦労させている自分といて、幸せなのだろうかと。
『愛する人の前では………………』
「愛する人………………………か」
スゥゥーッと無重力を身体に感じ、大和は自宅のある階に辿り着く。
愛する人。
高橋と言う、完璧な男に愛される。
普通なら、嬉し過ぎて飛び上がりそう。
普通なら…………………………。
「何で、俺なん………………………お前に愛されれば愛される程、俺はお前に申し訳のうて…………………」
相手が自分じゃなかったら、高橋は今頃絶対に幸せな筈だ。
高橋みたいな男に愛されて、悦ばない奴はいないだろう。
「せめて、恋くらい幸せになって欲しいんやで……」
自分の様な未熟な主に身を捧げ、人生の全てを懸けてくれる高橋には。
だって、その愛に自分は応えてはやれない。
本気だとわかるからこそ、応えてはいけないと、大和だってわかってる。
「俺は、もう…………………よそ見出来ひんから…………」
チ……………………………ン
聞き慣れた軽快な合図と、ゆっくりと開くドアから見える街の夜景。
真正面に構える一枚貼りの大きな窓からは、遠く繁華街の眠らない明かりが目に入る。
「親父……………………起きてるんかな………」
目の前に広がる夜景が、美しいと思える感情。
ヤクザと言う、真っ当な世界から逸れた道を歩もうと、美しいものを美しい。
人の愛情を、大切に想える慈しみ。
そんな心を育んでくれた父親の存在が、今の大和を作り上げた。
それを想うと、よそ見なんてする余裕もない。
好きで好きで……………玄関へ向かう足が、いつの間にか早足になっている事に、大和は気付いていない。
ガチャッ………………………
逸る足は、あっという間に玄関のノブを回す。
大和は、昼間叱られた事などすっかり飛んでいる位に、父親へ会いたい気持ちを勢いに乗せ、思い切りドアを開けた。
「ただい………………………」
ま。
深夜にもかかわらず、元気よくドアを開いた大和は、飛び込んだ光景に思わず固まる。
「お?何や、終わったんか………………大和」
風呂上がり?
白の半袖Tシャツにスウェットを穿いて、濡れた髪を拭きながら廊下に立つ、父親。
「お………………親父…………………」
なんて、グッドタイミング。
「…………………………お帰り」
シャンプーの優しい香りを漂わせ、ほのかに湯気を上げる父親の笑みに、ノックアウト。
嘘やろ…………………………滅茶苦茶、嬉しい。
恋する男子、これだけで泣けそう。
瞬く間に、唇はニヤけて緩んでく。
「たっ…………………ただいま…………………っ」
馬鹿みたいに、力の入る『ただいま』。
それでも、思春期は素直になれない。
一応、昼間はぶつかった仲。
ちょっと、意地くらい張りたいじゃん?
ニヤける唇を手で隠し、平静を装いながら、脱いだ靴を揃えてみたり。
「ああ…………………?お前、歯でも痛いんか?」
歯……………………。
まあ、このお父ちゃんには通用しないよね。
照れ臭さを必死にこらえ、頑張る息子の顔を、まじまじと覗き込む。
口に、手。
歯で片付けられる。
「は……………………」(注:洒落ではありません)
「今の時間、歯医者開いてへんで?ちと見せてみ」
「ちょっ…………………親……」
口を押さえる大和の手を掴み、男前オヤジは真顔で迫る。
アホやろォ…………………!!
慌てる我が子も何のその、父親はいまだに力では負けません。
深夜の玄関で、デカい親子の格闘。
息子は抵抗する隙もないほどに、その照れて熱くなった表情をさらされる。
「もぉ…………………………っ」
父親の濡れた髪から垂れる水滴を微かに浴び、大和は真っ赤な頬を膨らませた。
悔しいけど、勝てないから、父親。
そこは、永遠に不滅です。
「ぷ……………………ほら…………………口、俺に見せ」
「え、あ…………………ぁ……あ…………んっ」
微笑む父親と、重なる唇。
戸惑っているうちに、大和は父親に腰を抱き寄せられ、一気に口を塞がれた。
そして、唇から滑り込む父親の舌が、口の中をねっとりと愛撫し、大和をとろける様な気分で包み込む。
「こ………………こん…………なんっ………ぁ…は」
「何……………………ちゃんと見てやっとんやから、大人しゅうせぇよ」
いや、見てねーし……………っ!
口の中、ねちゃねちゃやってるだけやし……………っ!
でも、LOVEが全身を埋め尽くす。
父親のキスに、身体が疼いて悦んでいる。
「…………………………何時間、待ってた思うとんや。会いとうて、死にそうやったで……………」
「っん…………………はぁ………親父……………っ」
死にそうやった。
死にそう………………………。
「………………………も……………………俺も、死にそうな位、会いたかった…………………………」
自分だけに見せる、父親の素顔。
昼間とは全く違う姿に、大和の心は鷲掴みにされる。
会いたかった。
溺れる愛は、許されない境界も躊躇う事なく越えさせる。
自分を抱きしめる父親の首筋へ腕を回し、大和は目一杯身体を密着させた。
空気すら、入る隙間もない程、目一杯。
「話したい事は山ほどあるけど………………後や。身体が、もたん」
「身……………………わ、わぁあっ!?」
ガバッ……………………………!
聞き返すよりも先に、持ち上げられる身体。
大和は父親の肩に抱き上げられ、一瞬で視界は床の木目を映す。
「おっ……………親…………………親父ぃっ」
そう叫んだ時には、既に父親のベッドが目に入った。
バフッ……………………………
「わ……………………ぷっ」
ふかふかのベッドに身体を沈められ、大和は空気を喉に詰まらせる。
「げほっ………………な…………」
何、された?
あまりの手際の良さに、息子はプチパニック。
「親……………………親……………」
薄暗い部屋で、大和の目は父親を探す。
顔が、見たい。
見ないと、安心できない。
そんな想いが、気持ちを焦らせる。
ギシ……………………………
「……………………………大和」
「親父……………っ…………」
その瞬間、身体に伝わる温もり。
自分を包む、力強い腕。
ギュウと抱きしめられる事の、たまらない安心感。
「会いたかった……………………大和……………………離れても、想いは繋がっとるからな」
「え…………………………」
離れても。
離れても。
関西へ。
チクリ………………………
現実が、胸に針を刺す。
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