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外堀
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攻めるなら、外堀から。
気付かない所に、敵は迫る。
「颯…………………………っ!」
澄みきった青空が輝く、昼下がり。
高級住宅街の一角に広がる緑溢れた公園で、聞き覚えある名が、辺りに響き渡る。
近くで遊んでいた親子連れや、犬の散歩をしているご婦人の視線を浴び、一人の美少年は恥ずかしそうに顔を上げた。
「…………………………片山さん」
久し振りの姿にも、ホッと癒される様な容姿。
神崎颯。
嵩原が、関西に帰る前にその名を口にした、大和の元恋人である。
穏やかな公園の風がよく似合う、美しい颯。
そんな颯が、僅かに口元を緩め、待ち人を迎える。
「悪い……………………声、デカかったな。お前見た瞬間、叫んでしもうた…………………」
苦笑いしながら颯に歩み寄る、これまた人目を惹く美男子。
タイトな紺色のステンカラーコートに、白いTシャツ、ブルーのクラッシュデニムを穿いて現れた、まさにモデル。
周りで、歩く片山に見とれる女性達には、想像もつかないだろう。
彼が、今の極道の世界で、若手トップのヤクザだと言う事を。
「だいぶ待った?………………疲れてへん?」
甘いマスクと、優しい言葉。
白洲会の組員達が知らない、ヤクザの時とは全く違う、片山の別の顔。
片山が、唯一颯にだけ見せる素顔だ。
「あ、いえ…………………だ、大丈夫です」
待ち合わせただけで、『疲れてへん?』。
どれだけスィート。
さすがに颯も、顔が赤くなる。
「そ?良かった……………………でも、無理せんでな、俺の前では」
「え……………………」
「気ィ使われる存在には、なりとうないから」
サラリと笑顔で言う片山に、返す言葉も出ない。
「か……………………片山さん…………………」
愛されるとは、なんとも照れ臭い。
偶然な出会いから今日まで、片山は颯の目に、常に紳士で格好いい。
それが、一度も崩された事はない。
そんな人に愛される。
まだ子供の自分は、ただただ戸惑うばかり。
「すみません………………………俺………」
片山から、気持ちを貰う一方で、何の答えも出せていない。
いまだに、心の中に残る、大和との記憶。
大和が初めてまともな恋をしたように、颯にとっても、大和は何もかもが初めての相手だった。
前を向いている。
どんなにそう声を張ろうと、味わった幸せを打ち消せる程、新しい恋に進む勇気がなかった。
片山の優しさに、颯は申し訳なくて、その綺麗な目を伏せる。
「颯………………………」
たった、30センチ程の距離に立つ、俯く愛しい人。
たった、30センチ。
それが、こんなにも遠く、届かない。
「………………………重い?…………………俺の気持ち」
頬を流れる風と、片山の落ち着いた声。
ハッとする様に自分を見上げる颯へ、片山は美しく笑みを溢す。
「お、重い…………………重いなんて………」
勿体ない。
それしかない。
片山みたいな男が、ハッキリしない自分を待ってくれている。
勿体なくて、自分なんかで良いのかと、颯は戸惑う瞳を片山へ向けた。
「何度も言うた様に、俺は焦ってへん。お前の気持ちが、ゆっくり変わっていけるのを待ちたい思うてる。それまでは、こんな風に空いた時間に、買い物とか出来る仲でええ…………………ただの友達でかまへん。ま、友達言うても、歳離れ過ぎてるけどな」
「…………………片山さん………………」
そう言って笑う片山に、颯の顔もつい綻ぶ。
それを見て、片山はより笑顔になる。
17歳の少年に恋する、30歳の男。
一般的には、明らかに犯罪に近い。
でも、たまにするlineや、今日みたいな日曜日に買い物へ行く約束に、その30男は胸踊らす。
クールで、美形なヤクザ。
あの嵩原や上地が高く買う、将来有望な片山は、本気で一途な恋をしている。
もう、後悔はしたくないから。
大切な人を失う苦しみ位、立ち直れないものはない事を誰よりも知っているからこそ、片山はこの恋を大切に大切に温める。
「………………………ほな、そろそろ行こうか?向こうに車停めてる。颯が行きたい店、連れて行ったるわ」
自分の腕時計に視線を落とし、片山は颯へ話かける。
片山の車。
愛車のポ○シェ。
ヤクザっぽくない片山と重ねると、とても絵になる高級車。
「は…………………はいっ」
イケてる男性が運転する姿は、乙女でなくても心惹かれる。
片山への気持ちに答えは見出だせないが、秘かに片山の運転姿は嫌いじゃない。
時折こうして片山と会うようになって、車に乗せてもらう機会も増え、颯はそれが好きだと最近思ってる。
ピピ………………………
駐車場に停めた車のロックを解除し、片山は然り気無く助手席のドアを開ける。
「………………………どうぞ」
「ありがとう………………ございます………………」
そつのない動きに、ドキドキする。
微笑む片山の手にエスコートされ、颯は大人の雰囲気に緊張感を高める。
今までなら、大人は苦手でしかなかった。
自分の家柄にしか興味のない連中が多くて、心を開けなかったから。
だが、嵩原や片山に出会って、それは変化していった。
こう言うエスコートに、嫌悪感が無くなった。
颯にしてみたら、それは凄い進歩だった。
「じゃ、閉めるな?」
バタン………………………
颯がちゃんと座れた事を確認し、片山は静かにドアを閉めると、運転席へ回ろうと車の後ろへ足を向けた。
人気のない駐車場。
太陽は辺りを明るく照らし、気分は上がる。
何事もない、ゆったりとした日曜日になる………………そう頭を巡らせた、時だった。
「白洲会片山慶次さん、ですね?」
突然、背後から聞こえた、聞き慣れない声。
「…………………………あ?」
一瞬で、片山の中でスイッチが切り替わる。
ジャリ………………………
微かに、アスファルトを踏みしめる音に神経を尖らせ、片山は鋭い眼差しで相手を捉えるべく、振り返った。
「関西竜童会、潰したくありませんか?」
関西竜童会。
振り向いた先に立つ、男。
黒いスーツに身を包み、うっすらと浮かべる笑みが、ゾクッと目を奪う。
何処かで、見た姿。
劉組織新首領ヤンの側近スーが、そこにいた。
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