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目論見
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チラつく、企み。
勝つのは、此方か、否か。
「………………………お前が帰ると、それだけで周りが煩そうてかなわん」
カチャ…………………………
ライターに火を点し、上地は自分の煙草にそれを近付けると、煙を空へと吐き出した。
繁華街のど真ん中。
道の片側を埋める、黒い集団。
西には、嵩原率いる竜童会の面々、東には、上地率いる白洲会の面々。
どちらの組員達も、互いの『親父』を守ろうと周囲へ睨みを利かす。
そして、その異様な雰囲気に、警ら中の警察官達までもがざわつき始める。
「場所移すか………………話したい事もあったさかい、丁度ええわ」
上地は加えた煙草の煙越しに、此方へ向かってくる警官達を見据えながら、足を前へと進めた。
「そら、ええけど………………お前、ようわかったな?ここに俺がおんの…………………」
ええ、本当に。
この広い繁華街。
雑踏犇めく中で、偶然の出会いなんて、出来すぎだよね?
組員達に守られ、ネオンの光を肩で切り捨てる様に先へ行く上地を追いかけ、嵩原は首を捻る。
何故だ。
何故……………………。
「ハッ!!………………まさか、お前ついにストーカーまで!?」
愛されてますから、お父ちゃん。
数々の上地の求愛っぷりを思い出し、嵩原は手にした煙草を落としそうになるほど、後退り。
愛って、時に暴走を生むよね?
このあまりにグッド……な出会いは、ソレって事!?
自分もソレで愛息子ゲットしちゃったし、ソレの強烈さは自ら痛感している。
これって、ソレか……………っ!!
最早『ソレ』ばかりで、逆にあなたの頭が、摩訶不思議。
「ス、ストー…………………」
「シバくぞ……………どアホ。ストーカーみたいなゲスな真似する位やったら、とうに羽交い締めにして一発ブチ込んどるわ」
「どっちが、ゲスやっ!!最低やないかっ!!」
どっちもゲスだろう。
行き交う人々が、遠巻きに厳つい集団へ視線を向ける中、大物組長、次元の違う話題で盛り上がる。
「おい、錦戸……………………親父と上地、こないに仲良かったか?」
ただ、関東での二人を知らない藤原達は、前を歩く背中に我が目を疑った。
なんや、アレ。
何が、あったんや…………………この二人。
やけに肩、近いやん?
スレスレな位に、近いやん!?
ウチの親父はともかく(いや、失礼)、あの上地が………あの上地が、人と肩並べて歩いてるやん!!(結局、失礼)。
衝撃的光景に、何度も目を擦る。
「藤原さん……………………親父の事は、諦めて下さい。不可能を可能にすんのが、ウチの親父です」
「……………………錦戸」
細かい事考えてたら、嵩原竜也の右腕は務まらない。
深い溜め息をつき、体のよいまとめ方で話を括る錦戸に、藤原は静かにその肩を叩いた。
「……………………………苦労しとんやな、お前も」
お察しします。
しかもそれは、隣を歩く白洲会でも起きていた。
「瀧沢っ………………親父、何があったんやっ!」
「た、嵩原組長と一緒に歩いとるやないかっ!!有り得へん…………っ、明日は嵐か!?」
22年の愛をさらした男の姿は、周りに度肝を抜かさすらしい。
関東へ行く前と、帰って来てからの変わりように、白洲会の組員達でさえビビる。
天変地異でも起きるのか!?
それはない。
でもそれ位、『冷酷上地』は根付いてる。
元々関西にいた組員達は、関東に付いて行った瀧沢に、目を丸くして質問を被せてく。
「俺に聞くな………………………俺も恐ろしゅうて、そこには触れられん」
殺されますから。
大物組長が、動く。
もう、面倒でしかない。
「近くに、行きつけの飲み屋があってな………………今日は、そこで組のと呑もう思うてたんや」
土壁には、手書きのメニュー。
年期の入った黒ずんだ柱には、古傷が味を出し、いい具合にテカりを見せる。
古びた居酒屋が好きな二人は、今夜も地元で昔から続く酒場を選ぶ。
ママには悪いが、クラブはどうも性に合わない。
二人共、金のない時代からのし上がった。
金が出来た今も、心は庶民派。
「あ………………?それが何で、彼処に……………」
「そこで働いとる兄ちゃんが、店に出て来た際に、えらい興奮して騒いどった………………『来る前に、嵩原組長を見た!嵩原組長が、街へ帰って来とるっ』言うて」
「は………………………」
小さな個室でメニューへ目を通しながら、嵩原は上地の言葉に眉をひそめる。
自分が帰って来てると、何故騒ぐ。
「夜の街で働く連中にとって、お前はヒーローやからな。帰って来ただけで、皆嬉しいもんなんや」
「そんなもんかな……………………」
「……………………そんなもんなんや」
嵩原には、周りの自分を見る目に自覚がない。
それは、昔から同じ。
威張る訳でも、格好つける訳でもない。
だから、好かれる。
久々に会っても、全くくすんでいない嵩原の姿に、上地は壁にもたれ、目を細める。
いつの間にか、嵩原の前では自然と微笑むようになった自分に、驚きである。
「ま、店のオヤジは、俺がおるから慌てとったけど…………………俺もお前に用があったし、兄ちゃんから話を聞いたんや。そしたらお前が、籔がおるクラブに入った言うやないか?」
「で、出て来たと……………………?」
「おもろそうやな思うやろ、普通。最近の辰見は、やたらと竜童に噛み付いとったしな。お前が、何してくれるんか、誰だって興味持つわ」
裏社会の話は、流れがいい。
辰見組の無駄吠えも、勿論上地の耳にも入ってた。
それを、帰って来た嵩原がどうするか………………惚れてなくとも、見てみたいと思う。
「ほな、悪かったな………………案外、大人しゅうて」
嵩原は、とりあえず並べられた生ビールを手に取り、苦笑い。
暴れる前に、良からぬ話が持ち上がった。
上地を目の前にして笑ってはいるが、嵩原の心中はあまり穏やかではなかった。
「……………………いや……………………お前に早よう会えたから、俺はどっちでもええわ」
「ブッ!!…………ゲホッ……ゲホゲホッ!!」
「大丈夫か、嵩原…………………」
大丈夫ではない。
上地のストレートさに、嵩原、呑みかけたビールで噎せ返す。
「お……………おま………………っ」
ブレない上地に食われるのも、時間の問題かもしれない………………………。
今更だが、嵩原は今まで以上に、身の危険を察知する。
愛されるって、大変。
「も、もうええ…………………そないな話しよったら、俺も妙な気分にさせられる気ィするし……………」
諦めよう、ブレない心と、上地の愛。
それでも、嵩原の愛は、大和のもの。
嵩原は散らしたビールをお絞りで拭き、必死に大和への愛を胸に誓う。
あかんあかん、人の愛に当てられたらあかん…………。
愛するのは、一人だけ。
「会えへんから、余計溜まっとんな………………」
色々なモノが。
「コホンッ………………………それより、上地………………お前が話したかった内容て、何や?藤原にまで声かけるて、そないに急ぐ話か?」
気持ちを切り替えるべく、嵩原は上地の『用』とやらに話を振る。
ずっと、気にはなっていた。
わざわざ上地から言って来るだなんて、滅多にない事だから。
「あ、ああ……………………それな………」
真剣な表情へと変わる嵩原の問いかけに、上地は新しい煙草を箱から取り出すと、ゆっくりと口へと運んだ。
「偶々、その話を聞いた日に藤原を見かけたから、つい呼び止めてしもうたんやけど……………………」
「その話……………………?」
その話。
長い指でライターを握る、上地のゴツい拳がやけに目につく。
いつも、表情を変える事の少ない上地は、この時も何一つ表情を崩す事はなかった。
でも、嵩原にはわかった。
それが、決して良い話ではないと。
「黒河………………………覚えてるやろ?」
黒河。
「……………………………え」
嵩原の耳に、ようやくその名が届く。
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