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朝日
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暗闇はいずれ、日の出を迎える。
そして、一寸の迷いもなく世界を照らす。
「若頭…………………何か、あったんですか?」
太陽が真上に昇る、穏やかな午後。
真新しい建物の匂いが、プンと鼻につく。
竜童会関東支部、支部長室。
高橋が泊まった数日後、大和は関東支部へ来ていた。
まだ、立ち上がって間なしの関東支部。
大和は、出来るだけここに居るようにしている。
関東に慣れない組員も当然多く、不安定さがある内は、皆の目のつく所へなるべく居て下さい。
そう言われたから。
勿論、高橋に。
大和の株を上げ、支部を盛り上げる為に、高橋がそう助言したから。
高橋………………………。
自分が大変な時でも、主の利益を一番に考える。
どんだけ真面目なんだ。
高……………………………。
違います。
「あ………………………………山代」
ぼんやりとデスクに座る大和は、自分へ話しかける山代の声で、我に返る。
「ごめ…………………何の話やったっけ…………」
これで、3回目。
さすがの山代も、これには苦笑い。
大きな窓から暖かい日差しを浴び、綺麗な顔を緩める。
「いえ、もう今日は止めましょう」
「え…………………………」
「だって、若頭…………………心ここにあらず、です」
「…………………ああ…………………」
すまん。
大和は目の前に立つ山代へ、バツが悪そうに頭を下げる。
「…………………………はぁ」
しかも、無意識に溜め息。
あれから、高橋とあまり話せていない。
ただでさえ忙しかった高橋を、より忙しくさせてしまったのだから当たり前だが、とにかく高橋は多忙である。
自分の一日の世話をし、関東支部の運営を考え、担当の地区を見る。
担当の地区。
成果を出さなければ意味のない世界で、高橋の指導は厳しい。
それだけの成果を出しにかかる組員も大変だが、それをさせるだけの指示を出す高橋は、もっと大変であろう。
何せ、四人の中で一番実績がある。
自ずと求められる事も大きくなる。
「話する暇もないわけや…………………」
高橋は、時間を下さいと言った。
時間を下さい。
高橋がそんな事を口にしたからには、必ず何かを拾ってくる筈だ。
どんなに忙しくとも、多分もう動いている。
でも、倒れる程の心に深い傷を負わされた黒河の事、高橋一人で大丈夫なのか?
大和は、ずっとそればかりが気になっていた。
「私では、お力になれませんか?」
そんな大和を気遣い、山代が歩み寄る。
「山代……………………」
「この2、3日………………若頭の溜め息、随分聞きました。お忙しい高橋さんの代わりに、度々若頭のお手伝いさせていただいてますが、私では役不足でしょうか?」
役不足?
まさか……………………。
頭の切れる山代は、高橋の代わりをきちんと務めていた。
何も問題はない。
「そ、そないな事…………………悪い、俺が色々考え込んでて……………………」
心配そうに自分を見る山代を見上げ、大和は首を振る。
支部に来ていても、意味がない。
結局、高橋の事ばかり考えてる。
「…………………………では、言って下さい。若頭の、お考えになってる事」
「はい…………………………?」
「私は、若頭のお力になりたくて、竜童会へ入りました。お力になれないのなら、いる必要はありませんから」
お力になれないのなら…………………。
ガタッ……………………
「いや…………………山代っ………何も、そこまで………」
大和は、しまったと思い、焦って立ち上がる。
今の自分に、部下は一人だけではない。
いくら高橋の事が心配だからと、他の部下への気持ちが手薄になってた事を、山代の言葉で知らされる。
「…………………………すまん」
上に立つ難しさ。
若頭と言えど、今まで自由にさせてもらっていた大和には、足りない事だらけ。
「クス………………………もう、謝ってばかりですね。今日の若頭…………………」
自分の前で申し訳なさそうな大和の表情が、山代の目を細める。
「山………………………」
「お一人で抱え込まないで下さい。言えないような事なら、言わなくても構いません。でも、何かしら動ける事はあると思います。私は、若頭だから竜童会へ参ったのです……………………どんな小さな事でも、若頭の為に全力を尽くします」
窓からの明るい光が、山代の整った美しい顔を、一段と美しく映す。
美しい。
以前の様な、儚げで弱々しい姿とは違う、健康的な美しさ。
病から復活した山代の活躍は、目まぐるしい。
関西から来た、気難しい竜童会の組員達の中には、最近は山代に進んで相談を持ちかける者もいる。
決して、目立ちにはいかない。
目立ちにはいかないが、山代は着実に存在感を放ち始めていた。
「若頭……………………私の世界を広げて下さったのは、紛れもなく若頭です。闇の世でも、いずれ日は昇る………………………それを、私は若頭から教えていただいた。若頭に、暗い顔は似合いません。いつもの様に、強い姿で私に指示を下さい」
「……………………山………………代」
いずれ日は昇る。
自らがそれを実感した山代は、生きる喜びを知り、大和の為に、どんな小さな事でも全力を尽くす覚悟を心に秘める。
どんな小さな事でも。
山代ほどの男が、だ。
言葉に詰まる大和を見つめ、山代は笑顔で素直にそれを口にする。
山代もまた、大人なのだ。
「……………………ありがとう、山代」
山代の熱い気持ちに、大和は嬉しさで頬を赤らめる。
誰にも言えない、高橋の話。
言えないが、聞かなくとも動ける事をしてくれると言う山代の言葉は、とても胸に響いた。
日は昇る。
いや、昇らせてみせる。
ヤクザも最低だが、この世に最低な人間はまだ沢山いる。
大切な人を守る為なら、その最低な人間と戦う事を、許して欲しい。
「少し…………………力、貸してくれるか?」
高橋の世界が、明るく照らされるように。
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