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親父の心友(やや★)
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何が恐いって?
そりゃ、存在が恐い。
『ヤれるもんなら………………』
笑いながらそう言った安道の言葉は、腕には自信がありそうな厳つい男の感情を、見事に逆撫でした。
「……………………貴様ぁ…………………」
握りしめた拳をプルプルと震わせ、大和と安道を睨み付け、男は呟く。
貴様。
それを言われたからと言って、尻込みする二人ではないが、近くを通る人々は、ただならぬ雰囲気にギョッとし、遠巻きに去って行く。
裏路地とは言え、ビルの向こうは繁華街。
古びた居酒屋や、バーなんかも目に入る道筋は、それなりに通行人も多い。
背も高い男が3人睨み合えば、ただでさえ目立つ。
「貴様ぁ……………………何や?ヤんのか、ヤらんのか、サッと決めや」
ヤんのか、ヤらんのか。
あんたは、ヤってもええんかぃ………………っ!
平然と煙草を吸いながら、男を挑発する安道の脇で、大和は呆気にとられる。
「…………………………やっぱ、偵察ちゃうな、コレ」
思い切り絡んでます。
ヤる気満々です、安道京之介。
横目で見る安道は、僅かに口元を緩め、相手の出方を楽しみに待っている。
これでも昔は、あの父親と肩を並べ悪さをしていた。
あの父親と。
大和でさえ、いまだに本気で怒らせたくはないと、思ってます。
「ふざけるなァ………………っ!!!」
そんな安道の態度に、男が我慢出来る筈もなく。
いきなり声を張り上げると、安道目掛けて拳を振り上げて来た。
「京っ……………………!!」
バシッ…………………………!
焦る大和と、耳に響く、肌と肌がぶつかる音。
「………………ぁあ?オイ、これマジなやつか?」
マジなやつ……………………?
思いの外、落ち着いている安道の声に、大和は我が目を疑った。
い…………………………っ。
目の前の光景を見て、大和も絶句したが、男はもっと驚いていた。
「口だけか…………………ボケ」
確かに、男の拳は安道へ向かって、力一杯振り下ろされた…………………ハズ。
「悪りィが…………………ガキと、喧嘩するつもりはないけどな」
「京…………………之介……………」
関西にいた時は、大和もそれなりに喧嘩漬けの日々を過ごし、悪名高き悪ガキだった。
だった……………………。
でも、知った。
父親や安道は、多分レベルが違うのだと。
自分達の前にいる男は、自分と目線が変わらないのだから、少なくとも身長が180はある。
そんな男が、力一杯振り下ろした拳を、安道は片手で受け止めていた。
片手一本で、顔色一つ変わることなく。
「な…………………………」
やっと絞り出た、声。
男は、ゆっくりと眼球を動かし、安道が受け止めた拳へ目をやった。
微動だにしない、自分の拳。
力を踏み込んでも、安道の腕が動く事はなかった。
「てめぇに過信しとる奴に、ろくなんはおらんわ」
安道はそう言うと、ニヤリとほくそ笑み、空いた手で吸いかけの煙草を持った。
いつの間にか、先の灰も長くなっている。
それを一吸いして赤い火を強めると、なんと安道は躊躇う事なく、男の額へ先を押し当てた。
ジュゥゥゥ………………………
「ぅわあああ………ぁ…………っ!?」
小さく聞こえた、肌の焼ける音。
そして、慌てて顔を伏せ、額に付いた灰を叩く男。
所謂、根性焼き。
「きさ…………………まっ………」
赤く爛れた額を押さえ、男が顔を上げようとした時は、もう遅かった。
自分から男の目が逸れた瞬間、安道は身体を捩り、振りをつける。
振り………………………。
「ひっ………………………」
バコォォォ…………………ンッ!!!
思わず後退りする男よりも早く、安道の回し蹴りが、その顔面に炸裂した。
「ぐはぁ……………………っ」
きゃぁぁぁ…………………っ!!
辺りを埋める悲鳴と共に、男の大きな身体は宙へ浮く。
鼻は、確実に折れたと思われる。
血しぶきが空に舞い、男は五メートル位先のビルの垣根まで飛んで行った。
「う…………………嘘や………ん……」
植木の中へと消えた男を眺め、大和は呆然と立ち竦む。
「手応えないのォ…………………喧嘩にもならへんわ」
歩道に落ちた煙草を拾い上げ、安道はなに食わぬ顔で、それを携帯灰皿へしまい込んだ。
マナーは守ります、安道様。
いや、そこ?
ヤクザより、質悪いやろォォ………………!!
「信じられん……………………京之介ぇ…………」
もう、出る溜め息も失せた。
「アホか、何言うとんな……………………先に手ぇ出したんは、向こうや。正当防衛やて」
………………………過剰防衛の間違いだろ。
それでも、安道に悪びれる様子はない。
ヤクザより恐い堅気…………………もとい、ヤクザより質の悪い、最早ヤクザです。
ただ見に来ただけが、早くも事を荒立てた気がする。
「……………………高橋にバレたら、叱られる」
とりあえず、黙っておこう。
新しい煙草に火を点ける安道の隣で、大和は静かに目を閉じた。
「高橋……………………高橋やと……………………」
大きな悲鳴と人だかり。
嫌でも興味は、注がれる。
そんな野次馬の奥から、その男も二人の姿に目を奪われていた。
人混みに紛れ、秘かに大和達を見つめる。
「…………………………誰や、あのガキは」
クチャクチャと下品な歯音を口の中で響かせ、吐き出す様に喋る、掠れた関西弁。
大和や安道の顔を、知らない男。
当然、大和も男の顔を知らない。
自分達が見られている事に、気付いていない。
「でも……………………あの目、よう似とる……………」
忘れもしない、憎き男の目。
真っ直ぐで、一点の曇りもない、嫌味な目だった。
「そう言えば……………………奴には、ガキがおったな」
ボディーガードに脇を固められ、間から差し込む街の明かりに照らされた、ギョロつく目付き。
皺の寄った唇を、汚ならしい舌で舐め、男はニタッと笑みを浮かべる。
紛れもなく、黒河。
男に様子を見に行かせた黒河は、用心深さから、どんな奴が彷徨いていたのか、暗がりから様子を伺いに出て来ていたのだ。
「向こうからわざわざ顔見せに来るとは、ええカモやの…………………………」
ええカモ。
ニタニタと、黄ばみかけた歯をチラつかせ、黒河はギョロギョロした目に大和を焼き付けた。
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