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それでも、愛を
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どんな事になろうと、愛してます。
誰よりも。
「た………………………高橋………………………」
何で、来たんや………………………。
大和は震える唇をグッと堪え、雨に打たれたのであろう、髪の毛の先から滴を垂らす高橋へ目を向ける。
端整な顔立ちの高橋は、濡れた姿がまた綺麗で、こんな状況なのに頬を伝う水滴すら絵になった。
何で。
胸の中で問いかける、悲痛な問いかけ。
聞かなくとも、わかってる。
殴られた自分の顔を、哀しい瞳で見つめる高橋が、全てを語る。
「……………………………若、申し訳ありませんでした」
申し訳ありませんでした。
違うやろ。
謝まらなあかんのは、こっちやないか………………!!
高橋の口をついて出た謝罪に、大和は唇を噛みしめ俯いた。
『…………………わかります、若の事は』
大好きなオムライスを食べた夜、高橋は自分へそう言った。
わかります。
高橋が大和に付いて、2年。
たった2年。
でも2年。
あっという間に過ぎた2年は、二人にとって何よりも濃く、大切な2年間だった。
だからわかる、聞かなくとも。
高橋は自分を助ける為に、会いに来た。
馬鹿な主の行動を悟り、助ける為に、辛い過去へ会いに来たんだ。
俺は、なんて事を………………っ。
守ってやりたいものも守れない不甲斐なさに、大和の心は引き裂かれそうな程痛みを帯びる。
「…………………帰れ、高橋…………………ここは、お前がおったらあかん所や!!帰れっ、高橋っ!!」
厳つい男二人に押さえられたまま、大和は高橋から目を背け、大事な右腕に怒鳴り声を上げる。
こんな自分を見て、高橋が帰る筈がない。
「これは命令やぞっ!!サッと出て行けやっ!!」
帰る筈がないとわかった上で、大和は高橋を怒鳴り続ける。
怒鳴っていないと、居たたまれない。
目の前にいるのは、あまりに卑劣な男。
卑怯で汚くて…………………自分の復讐の為なら、何でもやってのける卑劣極まりない男、黒河だ。
そんな黒河が、高橋をまともに扱う訳がない。
また、高橋が苦しんでしまう。
それだけは、させたくない。
させたくはなかったのに…………………!!
「帰りません、若。私の為に動いて下さっとる若を置いて、誰が帰れるんですか……………………若が助かるなら、私はどないな目に遇っても苦やありません」
「高橋………………………っ」
当然のように、高橋は大和の命令を拒否した。
「大丈夫ですから、若」
大丈夫って………………………。
あんなに泣きながら過去を話したくせに、何が大丈夫なのか。
「た…………………か………………」
自分を見て微笑む高橋に、大和の瞳には、瞬く間に涙が揺れる。
「…………………な………ゃ…………………笑うなや……………こないな時まで、笑わんと俺を叱り飛ばせやっ!!」
涙と共に溢れる想い。
誰でもいい。
誰でもいいから、高橋を助けて欲しい。
もう、それしかなかった。
「くっくっくっ………………ぎゃはははは……………っ!!愉快やのォっ!心の底から愉快じゃあっ!!主従の二人が揃うて何の話をするんか思うたら、しみったれたクソにもならん話やないかっ!」
互いを想い合う二人の会話を暫く見ていた黒河は、我慢しきれないとでも言う様に、ギョロギョロした目を見開いて笑い出した。
「高橋ィ!!お前もつまらんガキに付いたもんやなァ…………っ!このガキは、チョロかったでぇ…………お前を監視しとった画像を、バラ撒かれとうなかったら一人でけえ言うたったんや。そしたら、アホみたいにノコノコ来よったわ……………………何が、竜童の若頭や。笑わすなっ!!」
「黒河ァ…………………っ」
何もかもが、自分の思惑通り。
高橋を想う大和の気持ちを嘲笑い、大和を想う高橋の気持ちを貶す。
十数年振りに言葉を交わす、黒河の変わらない汚なさに、高橋の目は怒りに染まる。
この男に虐げられた苦しい過去。
暗闇をさ迷った光なき世界の、どんなに哀しく絶望に満ちた日々だった事か。
その顔を見ただけで、いまだ息苦しくなる身体を懸命に抑え込み、高橋は大和を救うべく自らを奮い立たせる。
「俺の事は、どう言おうが構わへん。でも、若を侮辱するんは許さん………………………若は、俺らの事には関係ないやろ!」
「関係ない?アホか…………あの憎き嵩原のガキやぞ?関係ない事あるか、存分に痛い目見てもらうで」
痛い目。
それを呟く、黒河の不気味な笑み。
想い合う気持ちの、何とも格好の餌食か。
美味しい。
美味し過ぎて、緩んだ口から涎が垂れそうになるのを、黒河は染みが目立つ手で拭い取った。
「黒河…………………貴様………………」
「……………………のォ、高橋。お前、さっき言うたな?好きなだけ………………俺を好きなだけ……………ヤれと」
久々に見る高橋の美しさ。
遠目に見ていたよりも、間近で見ると、益々その艶やかさは増している。
十代の頃から上玉だったが、歳を重ねた高橋は、より男を上げていた。
いやらしい、男の目。
皺の入った唇をギトギトした舌で舐め、黒河は高橋を眺めた。
「お前……………………」
ゾクッとする、感覚。
高橋は、黒河の言わんとする事を理解した。
何年経とうと、黒河にとって自分は、雌犬。
「オイッ!!ちょっと待てやっ!!お前、何する気ィやっ!高橋に手ぇ出すなっ……………高橋に…っ」
「ガキは黙っとれぇっ!!ワシは、高橋と話をしとんじゃ!!」
自分の思惑を察した大和の叫びを、黒河は血走った眼差しで一蹴する。
娼夫は、所詮娼夫。
これを使う手はない。
「腹決めるわなぁ?高橋……………お前が何もせんかったら、若頭をいたぶったるぞ?それでもええんか?ウチの用心棒らは、ワシの指示をよう聞きよる。大事な若頭を生かすも殺すも、お前次第や」
お前次第。
羽交い締めにされた大和が、高橋の視界を奪う。
「あかん……あかんでっ!!高橋っ!!俺は、どうなってもええんや………っ!ええんやからなっ!!」
「若…………………………」
自分の為に頬を濡らしてくれる、愛しさ。
愛してる。
この人を、愛してるんだ。
躊躇う事は、何もなかった。
「………………………黒河」
怖いものはない。
嵩原に救われてから今まで、自分は充分幸せだった。
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