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紡ぎ合う気持ち
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大切なものを守る。
当たり前の事が、当たり前に出来ない時ほど、悔しい事はない。
ブォォォォ…………………ン
街中を、猛スピードで走り抜ける黒のフェ○ーリ。
すれ違う車の運転手も、思わず見てしまうその超高級外車は、言わずと知れた安道の愛車である。
将来は、大和に。
なんて考えながら、安道はコレをキャッシュで購入した。
安道の人生は、全て嵩原と大和を中心にある。
それだけ、何よりも二人が大事なのだ。
だから…………………大和がピンチかもしれないなんて、そりゃ我慢出来ない位苛立っていた。
「ったく………………折角、あのビル調べてやっとったのにから、早まりよって………………………何処のどいつや………………俺の大事なガキに手ぇ出しやがってっ!顔に傷でも付けたら、シバき倒したるからなァ!」
いや、もう傷は付いている。
大和は、黒河に拳銃で殴られてしまったから。
当然の事だが、それを知るよしもない安道は、握ったハンドルへ力を入れ、フロントを濡らす雨に向かって怒鳴り声を上げた。
革張りの黒いハンドルが、安道の力で小さくメリメリと音を立てる。
今の時点で、黒河の命は既にない。
「…………………………安道さん」
隣に座る山代は、そんな安道に驚いていた。
謎多き男、安道京之介。
嵩原の幼馴染み。
莫大な富と、自分を持つ揺るぎなさ。
見た目もさることながら、竜童会の組員達がこんなに頼りにしてしまうなんて。
一体、どれ程の器なのか。
ガサ………………………
高級車の助手席で、山代が自分をマジマジと見ている事など気にもしていない安道は、相変わらずブツブツ言いながら、ダッシュボードからハンズフリーのイヤホンを取り出す。
「悪い、山代…………………ちと電話かけるわ」
「え…………………は、はい……………」
慣れた手つきでスイッチを押し、安道は何処かへ電話をかけ始める。
多忙を極める安道には、これが日常。
スマホ一つ手放せないし、何処にいても誰かしらと会話をする。
勿論、ほとんどが仕事の話だが、たまに踏み込む事の許されない会話もある。
「あ、ヅカか?俺や…………………」
ヅカ………………………?
電話が繋がった途端、安道の表情が険しくなった。
山代は、そのピリッとした空気の変化に、また違う安道を見る。
「例のビル、何かわかったか?ん…………………ちと状況が変わってな、今そこへ向かっとんや。もしかしたら、血ィ見るかもしれん…………………掃除屋、手配しといてくれるか」
「……………………………掃除屋」
思わず顔色の変わる、山代。
裏の社会に生きていれば、耳にはした事がある。
掃除屋。
その名の通り、何でも掃除をしてくれる。
何でも……………………跡形もなく。
それを、安道は知っている。
いや、とても手慣れた様に、安道はそれを口にした。
手慣れた様に。
それがまた、山代には底の見えない恐ろしさにも思えた。
安道が、敵でなくて良かった。
そう思ってしまう位の、恐ろしさに。
「安道さん………………………?」
安道が電話を切ったのを見計らい、山代はやや気を使いながら話しかけた。
自分でも珍しいと思ったが、安道に対して緊張している。
竜童会の人間とは、やはり持ってる空気が異なる。
「ああ……………………ヅカは、俺の秘書や。何人かおる秘書の中では、一番古株やな。竜也の事も、大和の事も、ようわかっとる。これから行くビルを調べさせとったんも、そのヅカなんや」
「そう……………なんですか…………………でも、掃除屋って…………………」
何だか、とてもいい話ではない。
血を見る。
やはり、そう言う事になるのか?
自分を見てくる山代に、安道は少しだけ目を細めた。
「………………お前も、ヤクザならわかるやろ?組の中核高橋と若頭大和、その両方と連絡がつかへん…………よっぽどや。特に高橋が音信不通は、有り得ん。高橋かて、そんな状況になってしもうたらどうなるかって事位、ちゃんと頭にある筈やからな」
嵩原が高橋を助けてから、安道はその成長を見てきた。
高橋の実力は、よくわかっている。
高橋自身も、今の自分の立場をわかってる。
いつ危ない目に遇うかわからない生活で、自分と連絡がつかなくなるとどうなるか。
それでも連絡のつかないと言う事は、それだけ状況が悪くなっていると言う事。
「念には念をや。掃除屋も、その一つ…………………面倒な事になったら、跡形ものう片付けたる。竜也らに、絶対ワッパは掛けさせん。あいつらを守る為やったら、どんな手でも使うたるわ………………」
どんな手。
ヤクザが暴れて、まともに終わらない事を見込む。
多分、これまでも安道は、そうやって嵩原達を助けて来たのだろう。
それが、法に反するかどうかは定かではないが、そうやって。
僅かにアクセルを緩め、前に神経を集中させる安道から、山代はそれを悟った。
ブオォ………………ォン……………………
「………………………着いたな」
雨で、辺りはグレー色。
大和が見た、夜の出勤中である女達の傘以外は、周りを彩るものは少なかった。
車が近付いた先には、一つのビル。
山代は顔を上げ、フロントからそのビルを望む。
「ここは…………………………」
「予想やけど……………このビルの中に、二人はおる。そして、高橋に関わる人間もな…………悪い意味での」
「え…………………………」
悪い意味。
確信はない。
ないが、この前の大和の様子と用心棒から、そう思わざる得ない。
ガチャ…………………………
安道は、ビルの前に車を横付けして、正面玄関の屋根の下へ走った。
外は、いまだどしゃ降り。
ちょっと走るだけで、安道の高そうなコートはよく濡れた。
「組長………………………っ」
「…………………………弓永」
山代が安道の後に続いたのを見届け、隣の建物の軒下から、ビルを張っていた弓永が駆けて来た。
「は……………………?」
「すみません、ウチの弓永です。若頭が、高橋さんに何かあったら連絡して欲しいと言われて……………この弓永を付けていたんです」
「へぇ…………………そら、賢明やな」
いきなり現れた一人のヤクザ。
固まる安道に、山代は直ぐ経緯を説明する。
若いながらに、山代は立派な組長なのだろう。
山代を見る弓永の目を見たら、わかる。
とても尊敬している…………………そんな感じがした。
「ほな、お前ら…………………腕に自信はあるか?」
「はい………………………?」
二人の様子に口元を緩める安道が、チラッと目をビルの入口へ向けた。
「あ…………………………」
磨りガラスのドアにぼやっと映る、人影。
自分達がビルへ近寄ったから現れたのか、多くの影が中で彷徨いていた。
黒河の用心棒は、3人だけではなかった。
自分が一番な黒河は、用心に用心を重ね、スーに頼んでかなりの人数を集めていたのだ。
大和や高橋が気付かなかったのは、それらが皆2階で待機していたから。
二人が黒河の元にいる今、邪魔者を近付けない。
用心棒達は、早くもその動きを見せていた。
カ………チャ……………………
「じきに竜也が来る……………………それまでの辛抱や。男なら、根性見せてみぃ。仲間を、連れ戻すで」
ドアノブに手をかける安道の言葉が、山代と弓永の気を引き締める。
「…………………………はい」
「よし!なら、好きなだけ暴れろや…………………後は、俺がどうにでもしたるさかい」
どうにでも。
男が守ると決めたものは、死んでも守り抜く。
似た者同士なのか。
安道の頼もしさは、どことなく嵩原をダブらせる。
「行きましょう、安道さん」
山代にだって、守りたいものがある。
大和は、高橋を守りたい。
高橋は、大和を守りたい。
それぞれの想いは紡がれる。
そして、愛車のベ○ツを飛ばす中にも、その想いは紡がれていた。
「親父…………………もう暫し、ご辛抱下さい」
「……………………………ああ」
険しい表情の錦戸が運転する後ろで、雨の街を眺める親は、何を想う。
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