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雌犬(やや★)
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喘げと言われれば、喘ぐ。
腰を振れと言われれば、腰を振る。
それが、飼われた自分の毎日。
「ひゃはははっ…………………ええのぉ、高橋ぃ……………ええでぇ、ええでぇ!こないにええ男になって、ワシの犬に戻るんやっ!お前は、それが一番似合うとるでぇ!!」
汚ない男は、叫び声も汚ない。
直ぐ側まで安道達が来ている事に、気付いていない黒河は、久々に味わう欲情感に異常な興奮を見せる。
美しいヤクザ、高橋。
自分の元から離れ、天下の竜童会でその地位を確立し、極道の世で今や知らない者はいない。
そんな男を、この手で好きに慰めものに出来る。
こんなに楽しい事があろうか!!
嵩原に痛い目に遇った下半身が、久し振りに男の悦びを感じている事に、黒河の表情は見るのも不快な性欲者へと変貌していた。
「っざけんなァっ!!高橋は、お前の犬なんかじゃねぇっ!汚ねぇ手で、高橋に触んなよ………っ!!ジジイ!!」
そんな黒河の卑劣な笑みと反する、大和の悲痛な叫び。
屈強な男達の腕に身体を羽交い締めにされ、足をバタバタしながら、大和は涙ながらに黒河を睨み付ける。
「くくく…………っ………………いくらでも叫べ、若頭。いくら叫んでも、お前には何も出来ひん。高橋は、お前を守る為に、ワシに抱かれるんじゃ……………よう頭に入れておけ。どないに強がっとっても、自分は無力やてなァ!」
「黒河…………………てめ…………っ」
悔しいが、その通りだ。
自分のせいで、高橋をこの場に引き寄せてしまった。
自分のせいで、高橋を再び黒河に会わせてしまった。
動く事さえままならない現状で、自分は叫び声を上げるしか術がない。
情けなくて、なんと愚かなガキか。
大和は掴まれた腕で、流れる涙を拭う事すら出来ない自分の無力さを、痛感する。
「若……………………………」
そして、それを見る高橋もまた、辛くて胸が鋭利な刃物で突かれたような感覚に陥る。
自分を想って、涙を流す大和の痛々しい姿。
気持ちを奮い立たせ、必死に落ち着きをはらうが、自分の身体が再び黒河の餌食になるよりも、大和の涙を見る方がはるかに辛い。
泣かないで下さい、若……………………。
ただ、それを願うだけ。
泣かせたくない。
泣かせたくない。
愛してるのに。
非情な現実は、どう動いても二人を傷付ける。
「もうええやろ、黒河。若に手ぇ出すなって言うた筈や………………………俺の身体でええんなら、なんぼでもくれてやる。ゴタ並べんと、サッとせえや」
「高橋……………………っ!」
それでも、腹を決めた高橋は、潔かった。
どんなに苦痛を味あわされた男でも、愛する人を守る為なら不思議と見る事は出来た。
「若、心配はいりません……………………私は、強ようなりました」
強よう。
嵩原に出会い、大和に出会い、勿体ない位の幸せを貰った。
これ以上何を望む。
絶望しか知らなかった人間が、人の温もりを知ると、それを守る為にこうも強くなれるのだ。
「高………………………っ」
『若』。
高橋の優しい声。
毎日々、どれだけその声を聞いてきただろう。
ぼやける視界も、見る先を違う事はない。
親父…………ぃ……………高橋を助けてくれ……………っ。
大和は心の底から、悲鳴を上げた。
自分では、どうする事も出来ない。
頭に浮かぶのは、誰よりも強いと疑わない人。
どうか、高橋を。
自分の為に、身を犠牲にしようとしている高橋を、助けて欲しい。
「ふん…………………つまらん情やの。嵩原の若造みたいなんが上についとるから、下の連中もしみったれた奴が増えるんや………………よう見とけ………………どう足掻こうが、貴様らはヤクザ…………………ワシらと変わらん汚れた世界に生きとんや!」
そう言うと、黒河はソファに置いていたパソコンを弄り出す。
パッと映像が変わり、大和に向けられた画面に映る、一つの薄暗い部屋。
殺風景なその部屋の中央には、大きめのベッド。
周りの何も無さに、自然とそこへ視線が向く。
「なに………………………」
顔色の変わる、大和。
まさか、これ………………………。
「ワシは、今ここ以外塒がのうてな…………………隣の部屋で寝泊まりしとんや」
隣の部屋。
緩んだ口元を、もっとだらしなくニタニタさせ、自分を見てくる黒河。
そのいやらしい目で語る黒河の目論見が、大和の中で嫌な答えを引き摺り出そうとする。
「ええやろ?寝室が一望やで…………………」
「お前………………………」
「周囲の目がのうなったら、高橋がワシに何しでかすかわからんしな…………………この画像で、用心棒らに監視してもらうんや……………………の?妙な真似したら、若頭の命は無いで?高橋…………………」
外道の道は、外れた場所から戻る事はない。
監視。
十年以上経っても、まだ黒河は高橋にそれをやる。
しかも、自分が抱かれている姿を、よりにもよって大和にさらすと…………………。
この男なら、やりかねない。
黒河が、ただ自分を抱くだけで満足する訳がなかった。
高橋は深く息を吐くと、その汚ならしい外道の顔を見据えた。
「…………………………わかった。それで、若を守れるなら、俺は構わへん」
「止めぇやっ、高橋……………っ!お前は、こないな汚ない男に抱かれてええ人間違うっ!!お前は、綺麗なんやっ!!綺麗なんやってぇっ!!」
「ぎゃははははっ…………はぁっ、滑稽や滑稽っ!ガキの叫びなんざ、ホンマにクズやのっ!!どんなに高橋を想うても、ワシの手で握り潰されるんじゃァ!高橋っ……………ほれ、行くでぇっ!お前の大事な若頭に教えたれぇ…………お前のいやらしい身体をっ!!」
大和の訴えは、哀しく空を切る。
もうボロボロとどんなに泣いても、高橋は振り向いてはくれなかった。
黒河の汚れた手に腕を引っ張られ、隣の部屋へと連れて行かれる。
「ぃやや………………嫌やァ、高橋ぃ!!行くなァ!!俺の命令を無視すんなっ!高橋………………っ!!」
叫び続けた喉は、既に掠れて上手く名前すら発せない。
それでも、声を張り上げる。
行くな。
行くな。
「行くなぁぁぁっ!!高橋ぃぃぃ……………っ!!」
色褪せたドアが開かれ、真っ暗な世界を覗かせる。
高橋を待つ世界。
それは、また闇に成り変わるのか。
大和の声だけが、静かな部屋を埋める。
ドカッ………………………!!
「ぐふっ……………………」
飛び散る、血。
大和が高橋への叫び声を上げた頃、ビルの1階フロアは、大乱闘の様相を呈していた。
安道ら3人に対し、ビルにいた用心棒の数は20を越える。
「ったく、どんだけおんのや………………雑魚がァ」
近くにいた用心棒の顔面に肘鉄を食らわし、安道は次々迫ってくる男達をなぎ倒した。
雑魚が。
安道に言わせてみれば、そうなのだろう。
息が上がる事もなく、今度は飛び蹴りで、後から襲って来た男の後頭部を叩き落とす。
ガコンッ……………………!!
「あが……ァ……………っ」
男は一瞬で気を失い、見事に顔から床へと崩れていった。
「ハァ…………………何ですか………………これ………………こんなに人数揃えておくなんて、一体ここにいるのは誰なんですかね……………………」
「うぎゃ………………………」
バンッ………………………!!
まるで、自分達の様な敵が現れる事を読んでいたような、準備の良さ。
何もないビルには不釣り合いの、多勢。
山代は組み合った男を投げ倒し、安道へ話かける。
「わからん………………でも、名を名乗る前から襲って来る位や………………それを指示させとった言うんは、中々の悪人違うか。早よせな、大和らが危ないな」
僅か、数分前。
安道達がドアを開けた途端、乱闘は始まった。
いきなり向こうから襲いかかり、有無も言わさず、殴りかかって来た。
瞬時に安道が腕を掴み、顔をぶん殴ってそこは回避したが、端にある階段からはどんどん人が流れ込んで、あっという間に会話を交わす暇も無くなった。
相手構わず。
誰であろうと、邪魔者と言う事か………………。
「待っとれや、大和っ!!第2の親父が助けたるからなァっ!!」
力強い怒号と共に、安道の一撃がまた一人の用心棒の顔へ炸裂。
砕けた鼻から血を撒き散らし、消え失せる男。
第2の親父、強し。
その想いは、届くのか。
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