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邪魔者
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父親と高橋。
切っても切れない………………。
寄り添う二人は、まさにそれだった。
「晴れてきたな…………………」
とても濃厚な一日。
高橋の運転する車の後部座席に座り、大和はようやく青くなってきた空を見上げる。
また、忘れられない一日が増えた。
父親が黒河に何をしたか?
あれから、安道がどうやって現場を片付けるのか?
知りたい事は山程あったが、それを聞ける雰囲気ではなかった。
自分には、まだ触れてはならない境界がある。
触れてはならない。
若頭になっても、許されないなんて…………………。
極道の世とは、なんとも奥深く、底の見えない生き場だろう。
「ええ……………………晴れてきましたね」
大和の声に、高橋もフロントガラスを見上げ、笑みを浮かべる。
ミラー越しに見える、高橋の優しい瞳。
あんなにも辛い想いをさせたのに、車に乗ってからの高橋は、自分を責める事なく、むしろ穏やか。
穏やか……………………。
いつもなら、真っ先に怒るだろ。
あの恐い父親の前に出て、真っ先に。
「…………………………俺の事、怒らんのか?」
「はい……………………?」
「俺が黒河の口車に乗って、お前を辛い目に遇わせたんやぞ……………………何も言わんのか?お前は」
「若………………………」
怒れよ。
ミラーを見る大和の目は、そう訴える。
一番に怒って欲しい相手に、怒ってもらえない。
これが、最も応える。
「………………………お前が、親父の右腕のまんまやったら、あないな仕打ち受けんで済んだのにな……………」
あ、と思ったが、つい口から出てしまった。
父親だったら、まずヘマはしない。
父親に抱きしめられ、ボロボロ泣いている高橋を見たら、嫌でもそんな考えが過った。
走っても走っても近付けない父親と、それにすがる高橋。
結局、大事な右腕を救ったのは、自分ではない。
大事な……………………なんて、よく言えたな。
「いや………………ごめ…………………」
咄嗟に目を伏せ、大和は唇を噛む。
2年前、高橋はその強い父親の側ではなく、自分の側を選んでくれたじゃないか。
なのに、自ら傷口に塩を塗る様な真似してどうする………………………?
ぶつけなきゃ気が済まない性格って、厄介だ。
「も…………………ほじくり返す話やないな…………」
話せば話す程、高橋にも思い出させてしまう。
ただ、高橋を助けたかった。
組員達に高橋の過去を知られないよう、助けたかっただけ。
それで、終わらせよう。
「……………………………若」
そんな大和の姿に、高橋の目は曇る。
「申し訳ありません……………………私が、不甲斐ないばかりに……………………」
「高橋……………………っ!違うやろっ!それはっ」
思わず身を乗り出し、大和は叫ぶ。
「何で、そうなんねんっ!!不甲斐ないんは、俺やないか……………………っ」
「そんな事は、ありません。確かに、無茶はされました………………………それは、親父達が来てくれたから言える事ではあります。でも………………私を守ろうとして下さった」
「え………………………」
「僅か17歳の若が、部下の為に命を懸ける……………相当な覚悟やないですか?そないな大層な覚悟、その辺にいるガキ達に出来ますか?出来ませんよ、絶対に………………………そこまでして守ろうとして下さった事に、私は救われました」
助かったから、言える事。
助かったから言える事ではあるが、それだけで、高橋は死んでもいいと思える位、幸せだった。
愛する人がそこまでしてくれるなんて、恋人同士でも簡単には起こらない。
「嬉し過ぎて……………………叱れません」
「高橋…………………………」
その気持ちが、嬉しい。
ミラーに映る高橋の笑顔が、全てを物語る。
「ですが………………親父の存在は、やはり絶対です。私を救って下さった事実は、一生消えません。そこだけは、私は切り離せないのです…………………すみません、若」
嵩原がいたから、ここまで来れた。
然り気無く手を差し出し、然り気無く声をかけてくれる行為一つ、嵩原の右に出る者はいない。
今回の事で、高橋は痛感した。
嵩原のいない人生は、考えられない。
「ううん……………………親父は、凄い。お前がそう思って、当然や。俺、羨ましかったわ………………あっという間に、お前を助けた親父が」
高橋の話を聞きながら、大和は首を振った。
格好いい。
敵わないから、目標になる。
高橋の想いは、正解だと思う。
「クス……………………若のそう言う所が、いいんです」
「そう言う所………………………?」
「自分の失敗から逃げない……………………人の長所を、素直に称える……………………中々出来る事ではありません。だから、伸びるんですよ………………若は」
「そ……………………そうか、な」
悪ガキだったが、真っ直ぐに育った。
嵩原を親に持ち、安道や高橋に囲まれて成長して来た大和は、素晴らしい心を持つ。
これを伸ばさなくて、何を伸ばす。
「はい、そうです」
頭を軽く掻き、照れる大和が可愛い。
高橋は、赤い顔で俯く大和をミラーから見つめると、いきなり車を路肩へ停めた。
キキ……………………………
「え?何……………………どないしたん、高橋」
ハザードのカッチカッチと点滅する音を耳にし、大和は何事かと窓の外を見る。
「申し訳ありません……………………もう、限界で」
「は…………………………」
限界?
限界って、何が。
カチャ………………シュル…………
目が点になる大和の前で、おもむろにシートベルトを外した高橋は、突然振り返って、シートの間から後ろへと来ようとする。
「へ?な、何や……………高橋っ。やっぱ、拳骨か!?俺は、拳骨ハメられるん…………………」
かぁぁぁぁ…………………っ!?
慌てふためく大和と、それを包み込む高橋の腕。
「た…………………た、高っ……………高っ!」
高橋のあまりにも驚くべき行動に、大和の口は言葉にもなっていない。
だが、当の高橋は、腕を緩める気もない。
緩めないどころか、ちょっとキレてる。
「すみません、頭から離れなくて………………」
「あ……………………頭?頭………………て…………」
「ビルの中……………………あそこにおった汚ない男達が、若を羽交い締めにしてたかと思うと、腹が立って腹が立って!しかも、若の顔に傷まで……………!!あそこでキレたら、場が悪うなる思うて我慢しとりましたが、マジギレしそうでした」
「な…………………………」
何、それ。
車、デカくて良かったな。
大の男が二人、後部座席で抱擁?
デカくないと、息出来なかったよ。
その上、高橋から『マジギレ』。
初めて聞いた。
やや興奮気味の高橋に抱かれ、大和は意外と色んな事を考えた。
ビックリした時なんか、案外そんなもん。
「た、高橋…………………怪しいわ、この車」
「ヤクザの車なんて、怪しいものです。黒塗りの車に近付く者など、そういません」
「ええ………………………っ」
高橋、動じず。
いつもの高橋、何処行った…………………!?
硬派な男子が、消えていく。
「……………………………ホンマ、痛かったですね、若。綺麗な顔に、こないな傷………………………今度、誰かが傷なんぞ付けよったら、私も黙っておりません」
「高橋…………………………」
それよりも、戸惑う大和の顔を見下ろし、高橋は話を続ける。
傷口へ指を伸ばし、大和が痛くないよう、ゆっくりソッと指先でなぞる仕草に、胸のドキドキが猛スピードで加速。
ただでさえ男前な顔が、どアップ。
そりゃ、ドキドキするだろう。
「若……………………………」
それに輪をかけて囁く、高橋の罪深き甘い声。
これは、ヤバい。
これは、ヤバい。
若干濡れてる唇に、無意識に目が釘付けになっちゃいます。
シートへ崩れかけた大和は、高橋の唇を見ながら、懸命に父親を浮かべる。
俺には、親父がおんねん……………………!
親父がぁ………………………。
ペロ…………………………
「……………………………っ!!?」
生温かい感触と、唇に伝わる濡れ感。
崩れ落ちる高さもないが、腰は抜けたかも。
大和は、自分の唇を舐めた高橋を見上げ、固まった。
「お帰りになったら、少し消毒して下さいね」
微笑む高橋と、微かに唇から覗く赤い舌。
「た……………………高橋……………っ」
消毒って……………………!
大和の顔は、真っ赤っか。
心臓が、飛び出しそうである。
「私は、今回の件でようわかった事があります」
「わ、わ………………わかった………………?」
「私の目の届かない場所で若に何かあったら、私は冷静さを失います」
「な…………………に……………」
熱い顔へ手を当てる大和の上から、自分の手を重ねる、高橋の温もり。
「離れないで下さい……………………私から」
私から。
いや………………………。
「二度と……………………私の視界から、離しません」
大和の見えない世界は、あってはならない。
「………………………………高橋」
離しません。
そう呟くと、高橋は最後にもう一度、大和を抱きしめた。
「離しませんから………………………」
嵩原と高橋の絆が強いように、大和と高橋の絆もまた、強い。
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