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親父の嫉妬
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『手ぇ出すボケがおったら、噛み殺したる』
あながち、嘘ではない。
「あ?…………………なんや、何かあったんか?」
早くも、バレる。
大和がリビングへ入ると、父親はソファで着ているシャツを軽く捲り、煙草を吸っていた。
シャツを軽く捲り、煙草を……………。
これがまた、頗る格好いい。
ああ、やっぱり本物は別格。
ファザコン息子は、その姿にただただ見とれる。
アホや、俺……………………。
アホです、俺。
今、お父ちゃんは結構鋭い事言ってます。
「おい、大和……………………聞いとんか、話」
「……………………………え?」
自分を見るや否や、直ぐ様異変を勘繰る父親に、大和は白々しく聞き返した。
え?
聞いてません。
いや、聞こえたけど、聞きたくない。
バレたらろくな事にはならないと、わかるから。
「『え?』……………やないやろ。何があったんな」
何があったんな。
既に、確定。
何故か、気付かれる。
この人の洞察力に、敵う者はなし。
「別に………………………大した事やない……………」
読みかけの新聞を閉じて、自分の方をじっと見つめる父親の視線を、大和はほんの僅かだけズラして答えた。
しまった……………………。
そう思った時には、父親の顔は少し険しくなっていた。
「お前……………………自分の行動、反省してへんのか」
やや低めの声と、ブレない瞳。
毎度の事だが、これが殊の外恐い。
「親父っ……………………若の事でしたら、私が………」
「お前と話してへん。黙っとれ」
つかさず入る高橋のフォローも、一喝。
大和から目を離さず、高橋をたしなめる姿は、本当に恐怖である。
こうなれば、高橋は黙るしかない。
ゆっくり煙草の灰を灰皿へ叩く仕草一つ、緊張が走る。
「大和、大概にせえよ。大した事ない話でも、高橋が心配すんのわかっとるやろ。俺や高橋にまで言えへんなんぞ、ええ話にならんわ…………………てめぇの立場もわからん奴は、いつでも若頭下ろしたってかまへんで」
一応、昨日の夜は、激しく愛し合った相手。
それが、父親になり、組長となるとこうも変わる。
嵩原竜也には、一本も二本も筋が通ってる。
だから余計、惚れ込んでしまうし、その強さに打ちのめされる。
「………………………すみません」
大和は、何も言い返す事も出来ず、頭を下げるしかなかった。
ええ話にならん。
父親が何を言いたいか、すぐ理解した。
具体的な事は言わないが、昨日の今日。
黒河の一件が片付いたばかりで、自分はまた高橋に隠し事をするのかと。
高橋の気持ちも考えろ。
上に立っても、目線はいつも組員と同じ高さ。
だから、愛される組長。
ここを目指すのかと、何度も見上げる首の痛い事。
大和に課せられたプレッシャーは、隕石よりも重く心にのし掛かる。
「若………………………」
それに合わせて、心配そうな高橋の声が耳に痛い。
高橋に、心配はかけたくない。
自分だって、ちゃんと思ってるのに。
言うだけの事をしてきた父親の言葉は、常に説得力がある。
反対に、助けられてばかりの自分には、反論出来るだけの弁はない。
まあ、反論しようなんて思うてへんけどな……………。
大和は、ハァッと息を吐き出し、意を決した様に顔を上げた。
「俺………………………気になる男が、出来た」
厳密には、どう気になっているのかさえ、まだ自分もわかってはいないのだが。
桜井湊の事を正直に言おうと思って、大和なりに言い放った……………………つもり。
「は…………………………?」
ですよね。
大和、その言い方はマズい。
お父ちゃん、眉間に皺が寄ってます。
気になる男。
気になる……………………男。
何や、それ……………………。
一気に空気は凍り付く。
「わ…………………若…………………っ」
爆弾は、投下された。
自分の背後で、高橋が驚いてる風な気配を感じ、大和は首を傾げた。
「…………………………あれ」
何だか、雲行きが一段と怪しくなった気が……………。
大和は気付いていない。
自分の言った発言が、全くもって言葉が足りてないが為に、父親の気分を思い切り逆撫でした現状に。
気になる男。
最早、それは嵩原にとっても、気になる男。
もとい、俺の大和に手ぇ出しやがってこの野郎男に成り変わる。(厳密には、手は出していない)
「オイ……………何処のどいつや、そのナメた野郎は」
見れば、さっきまで手に持っていた煙草が、灰皿で息絶えていた。
しかも、かなりの力で押し潰されてる。
微かに上がる煙の、なんとも哀しげな様。
もしやアレ、近い未来の桜井湊…………………?
「お、親……………………」
「今すぐ連れて行け。俺が、握り潰したる」
近い未来…………………!!
目の前でソファから立ち上がる父親を見て、大和はようやく自分の失言に口を押さえた。
しくった……………ストレート過ぎた…………………。
お父ちゃんの愛は、絶大です。
そして、息子への愛一直線。
腸煮えくり返ってます。
「い、いや…………………それ、無理………………何処のどいつかわからへん……………………名前位しか」
うん、名前だけ。
あと、ヤクザ。
話がややこしくなりそうなので、あえてそこは伏せてみた。
「名前がわかっとんなら充分やろ!俺が炙り出したるから、教えろや」
ええ、天下の竜童会組長の力をフル発揮して。
「マ…………………マジ?」
「この顔が、冗談に見えんのか?」
苛ついてネクタイを緩める表情は、眼光が鋭くなっている。
そんな顔も、シビれる………………。
なんて、馬鹿言ってる状況ではなくなった。
「み…………………み、見えません…………………」
大和は迫る父親の迫力に、思わず一歩後退り。
これ、嫉妬されとん…………………?
恐過ぎて、もうわからない。
ただわかるのは、桜井が炙り出されたら、命が危ないかもしれない……………………。
「あかん………………完璧に、妬きもち焼かれてはる」
そんな二人のやり取りを見ていた高橋は、頭へ手を当て深い溜め息をつく。
大和の気になる男。
高橋だって、気が気でない。
ウチの大事な若に、ようも……………………。
会ったら、一発位はぶん殴りたい。(何度も言いますが、手は出していないんですけど)
殴りたいが……………………。
「こないにわかりやすい親父見たら、何も言えへんな……………………下手したら、止められるか心配や」
全くです。
誰が止める?
本気の親父様。
「……………………………誰もおらんわ」
高橋でさえ、お手上げ。
「ほら、早よう言えや、名前…………………春名に言うて、直ぐに見つけ出したるさかい」
それでも、苛つく父親の行動は、早い。
自分のスマホを取り出し、名前を聞いた途端に組を動かす準備。
「は、春名…………………?」
「密偵のリーダーや。奴に頼めば、2、3日でケリがつく。何処のどいつか、直ぐわかる」
「な………………………っ」
はい、仕事は完璧ですから。
「あ、京に言うてもええな…………………お前の事やったら、あっという間にしてくれるわ」
「ぇえええ……………………っ!!」
どっちもヤバいが、安道は違う意味でもっとヤバい気がする。
気がするじゃなくて、ヤバいだろう。
「ちょっ…………ちょっと待ってや!俺、気になる言うたけど、別に変な気持ちになった訳ちゃうしっ!」
若干、ドキドキしましたが。
「何て言うか…………………その、ウチの空気に合う気がしたって言うか…………………下手したら、山代以上やないかって思うた言うか………………」
まさか、こんなに話が早く進むなんて………………。
でも、頼めない。
頼んだら、とんでもない事になる。
とにかく、止めるしかない。
大和は父親の腕を掴み、懸命にドキドキ以外の事情を説明した。
「ウチの空気?山代以上?………………て事は………………そいつ、ヤクザか…………………?」
ヤクザか…………………?
それを耳にした父親の顔が、益々厳しさを増す。
「あ……………………………」
墓穴、掘りました。
大和、自滅。
天辺を獲った男の愛は、嫉妬も最強。
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