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Your kiss is sweeter than honey.
冬 1
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いつもよりも、寒かった。
行くところも無く、頼る人もいないから余計になのかもしれない。
周りの人は家族だったり、友達だったり、恋人だったり…一緒にいてくれる人がいるから、こんな酷く寒い冬の日でも寂しくないだろう。
秦 聖梨(はた ひじり)は、両手を自分の息で温めながら雪道を歩いていた。
(寒くて、痛い)
身体が?
心が?
もし、後者ならきっと聖梨には家族も友達も恋人もいないからか。
自分は記憶が無い。
家族も友達も、覚えていない。
気がついたら、外を歩いていた。
ブルッと身体が震える。
どこから来たのかも忘れてしまったので、行く宛がない。
そんな聖梨を嘲笑うかのように、空からは深々と雪が降ってきた。
ゆっくり歩いていた足が、遂に歩みを止めた。
聖梨は、その場でしゃがみこんだ。
(冷たい…)
感情という物がわからず、顔に出ないが今は更に無表情だった。
『寒い』と感じただけ、マシかもしれない。
容赦なく降り続く雪が、周りから隠すように聖梨の身体に積もっていった。
目を瞑った。
(このまま、消えてしまえ)
他人事のように、心の中で念じる。
この身体が何も残らなかったら、どんなに良いか。
誰も自分がいなくなっても困らないし、悲しまない。
(疲れた…)
そう思った瞬間、頭上からの雪が落ちてこなくなる。
「…?」
「立てるかい?」
すぐ近くで声をかけられた。
「…」
そっと顔を上に上げた。
優しそうな初老の男性が、自分に傘をさしてくれていた。
(自分に傘をささずに、俺に傘をさして…くれてる)
「今、コーヒーを入れたところなんだよ。良かったら妻の代わりに、飲んで感想を言ってくれないかい?」
声を振り絞って聞いた。
「…妻?」
「最近、先立たれてね。店をやっているんだが、どうも食欲がなくて味がわからないんだよ」
話の内容とは異なり、その人はにこやかに話してきた。
「俺…も、味がわからないです」
「じゃあ、一緒に飲んでくれないかい?おいで」
返事に困っていると、男性は聖梨の腕を持って立たせる。
聖梨の重い足取りに合わせて、ゆっくりと歩いていく。
そして少し歩いた所に、優しく店内を照らしている店の前に着いた。
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