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…けど、その音は俺からのものではなくて、覚悟していた痛みが襲ってこないので、恐る恐る目を開けてみると、俺を殴ろうとしていたはずのそいつが倒れていた。
「殺されてえのかてめぇ、ああ?!」
ボス猿に向かって怒鳴ってるのは…涼。
初めて涼が人に怒鳴ってんの見た。いつも切れても口調は柔らかかったのに…。
「…涼、あの…」
「あ?…何?昴流」
「おれ、大丈夫だから…」
ボス猿を殺りそうな勢いだったから落ち着かせようとズボンの裾を引っ張ると、涼が軽く舌打ちをした。
「だから怒るな、ってか?無理だろ」
「うわぁ…っ?!」
「…こんなに傷だらけになったお前を前にして切れない訳ないでしょ」
俺の方を向くと、先のことが嘘だったかのような優しい声音でそう言って涼が倒れている俺を抱き上げる。
「痛くない?」
「…あし、いたい」
横抱き…所謂お姫様だっこをされ、涼の手に当たるところがズキズキと痛む。
…つか、身体中が痛い。骨何ヵ所か折れてるな。
「…こいつの足折るか」
「えっ」
涼がボス猿を睨みながら、ボソ、と呟く。そこまでしなくても良いから、怖いスイッチ入らないで。
「は、それがお前の男か?狂狼」
「…だったら何だよ」
俺らのやり取りを見ていたボス猿が涼に殴られでもしたのであろう肩を押さえながら笑った。
「…そいつにどんだけてめぇが狂ってんのか教えてやろうかァ?」
「あ?」
「どうせ言ってねぇんだろ?言ったらその王子様もてめぇの事を"化物"だと思うんじゃねぇのか?」
…涼が知ったら、俺を嫌う…?
そんな訳無い、そうはっきりと言いたいのに言えない。代わりに口が言おうとするのは「止めろ」という3音。
分かっていたんだ、心のどこかでは。
そこまで狂っていないと自分では思っているが、そうじゃないってこと。
俺の"本性"は恐れられることはあっても好かれるようなことな無いってこと。
「喧嘩の時、いつも笑ってやがった。いくら殴られでも、蹴られてもその表情は崩れねぇ」
「…っ、やめ、ろ」
「狂狼にとって喧嘩は"快楽"」
「っ…」
「てめぇに人間の真似事は似合わねぇよ。欲望のままに獲物を食らう。それがお前だ。…てめぇは"こっち"でないと生きていけー…」
「黙れ!!」
ボス猿の言葉を遮るように俺の怒鳴り声が倉庫内に響く。
声を荒げる俺をボス猿はゲラゲラと腹を抱えて笑った。
「くは…っ、はは…、必死だなァ?!そんなに嫌われたくねえのか?ははっ、何度でも言ってやるよ、てめぇはこっち側の化物だー…がぁっ?!」
涼の足が上がり、ボス猿の顔に回し蹴りを入れる。人を蹴ってこう言うのもあれだと思うが"綺麗"だった。ボス猿に蹴りが綺麗に入ったって意味じゃなくて、動作が。
「俺を怒らせんじゃねぇよ餓鬼」
その声のトーンは凄く低かった。
怒ってる。
…けど、それは何に対して?
俺はそうじゃないって否定の怒りなのか、余計なことは言うなっていうボス猿が言ってることを肯定した上での怒り。
考えられるのはこの2つ。
後者なら…それはつまり…。
嫌だ。嫌われたくない。
「確かに、こいつは化物だな」
ーえ…?ー
肯定。…つまりは後者。
俺は涼に嫌われた…?別れようって言われるのかな。嫌だ、別れたくない。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「……ーーー」
嫌われた、その言葉が頭の中を占領し、その後に続けられた涼の言葉が耳に入ってこなかった。
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