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「寝ろ」「寝ない」のやり取りを続けた十数分後。結局涼は寝てしまった。頬をぷにぷにしても気づかないくらいには爆睡。普段なら暫くしたら起きるんだけどその気配はまるでない。
こうなったら起こすのが申し訳なくなって、昼飯の時間に一度起こすつもりだったけど、寝たいだけ寝てもらうことにした。晩飯までには起きてくれるだろ。
その間に俺は極力音がでないように気をつけながら部屋の掃除。最後に行った書斎、基涼の資料置き場兼仕事場は机の上に参考書が山積みになってた。コピー機の上にも積まれてる。
これは多分、生徒の為にプリント作ったりでもしてたんだろう。が、ここまで散らかっているのは涼にしては珍しい。この部屋を見てたら受験シーズンって生徒だけじゃなくて教師にとっても忙しい期間なんだろうな、とその大変さが嫌なほど伝わってきた。
受験も終わったし片付けても大丈夫かなと思って科目順に本棚に並べていく。使う頻度とか、今出してない本は低いんだろうからそっちを取りにくい上の棚に固めて、下の方におけるようにする。
部屋が片付いたら次は机の上。見事に一杯になってる灰皿にある残骸をごみ袋に移して換気。涼って、曰煙草は味を楽しんでるだけ、と俺が知ってる人のなかでは一番吸う量は少ないけど、この量からしてストレスとか疲労が溜まっていったら吸ってしまう人…なのかも?こんなに吸うのは心配だなぁ…涼も禁煙した方が良いのかもしれない。
コピー機や机の上も片付けて、一番威力を小さく設定した掃除機で床を掃除。
大体2時間そこら。全部の部屋を掃除し終わってリビングに戻ると涼の様子は変わりなく、まだぐっすりと眠ってる。唯一の変化はただ抱き締めていただけのぬいぐるみに顔を埋めてることだろうか。寝顔が見れないのは残念ではあるけど、これもこれで可愛いな。
洗濯物はまだ乾いてないし、飯は涼が食べないなら晩まで作る必要はないしでやること全部終わらせてしまったから涼が寝てるソファの隣に椅子を持ってきて、そこで涼の書斎から借りてきた本を読む。
「ん…」
そうやって時間を潰し、夜になったから晩飯の用意をしていると涼がモソモソと起き上がるのが布団の擦れる音で分かった。寝起きで頭が冴えてないらしく、起き上がった状態でぼーっとしてる。
「おはよ」
「…はよ。今何時?」
「6時ちょっと過ぎた位」
「……え、6時?」
寝る前はついてなかった電気で部屋が照らされている周囲を見てやらかしたって具合に涼が溜息を吐く。顔色は朝よりも良くなったかもしれない。良く寝れたみたいで何より。
「涼最近寝てなかっただろ。掃除する余裕もなかったんでしょ」
「あー…ちょっとね」
俺の質問に涼は笑って言葉を濁す。こう言うときは大体当たりだ。
「否寝るには寝てたんだけど比較的忙しくはなかった時間にも詰めたから仕事時間ぎっしりでさ、疲れてたから掃除する気になれなくて放置してただけ。帰るのが遅くなった分寝るの遅くなった感じかなぁ」
「…帰ってから書斎で何かしてたんじゃないの」
「書斎…?嗚呼、金曜のことか。毎日作るの面倒だから毎週纏めてその日に作ってるんだよ」
「へー…」
これはこれで筋が通ってるから多分嘘は言ってない。涼が言ってる寝る時間が遅れたのがどれだけかが問題で、言い方では1時間とかそのくらいに聞こえるけど、多く見て3時間とかそんくらいだろう。兄貴も「ちょっと遅れる」とかいってその4時間後に帰宅したことがあった…つーか、それが毎度のことだし。2人のちょっとはちょっとじゃないって俺もう知ってるんだからな。
「それで大学に合格できるなら俺は"教師"だからキャパが越えない範囲では仕事するよ。…でも流石に今回は多かったな。年々多くなっていってる気がするから受け付ける科目絞っていくか…」
「そうして」
「…ふふ、可愛いお嫁さんの願いだもんね。そうさせてもらいます」
教師だから、仕事だからギリギリまでする。それって、業務時間に時間さえあれば生徒のために何でもするって意味にもとれるけど裏を返してみると本心を交えたらその人たちのことが一切眼中にない、どうでも良いって残酷な言葉でもある。プライベートで友好関係があまりない人には無関心な涼の性格が丸々現れた発言だ。
でも、俺はそれで良いと思う。教師って仕事柄ならそれが一番生活のバランスが取れてるんだろうから。だってプライベートにまで生徒のために仕事持ち込んでたらそれこそ心身ともに壊れてしまいそうだ。
「あー…でもそっか。俺すげぇ寝てたな…ごめんね折角来てくれたのに」
「涼が寝てるの見てるの楽しかったから良い」
「え、俺ずっと見られてたの?」
本当は本を読んで、たまに見てたんだけど、話を盛ってみる。そうしたら涼がペタペタって自分の顔を慌てて触り出して。変な顔してなかっただろうか、とかそう言うことを考えているんだろうか。この反応が可愛かったから冗談なのは言わないでおこう。
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