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雑炊も食べてもうお腹一杯。久しぶりに家族全員で食べたご飯は凄く美味しくて、楽しくて。いつもよりも食べてしまった。
「兄貴大丈夫?」
「…今日酔い回んの早ぇかも」
会計を済ませ車に乗ったとき、行きにあれだけ席に拘っていた兄貴が静かなのに気づき、顔を覗いてみた。顔にはあまり出てないが、若干酔ってるみたい。最近炭酸水を代わりにしてアルコール飲まなかったもんな。それなのに急に蒸留酒をロックで飲むからだ。次から薄めて飲もうな。
「親父、今日そっちで寝てぇ。マンションとか歩いて部屋にたどり着ける気がしねぇ」
「昴流に迷惑がかかりそうなので構いませんが、服は知りませんよ」
「別に俺は裸でも構わねぇから良い」
さくっと今日は父さんの家で夜を過ごすことが決まってしまった。まぁ…、兄貴の状態からしてそっちの方が良いかもな。こっちの方が近いし、すぐ玄関がある一軒家と違ってマンションは距離がある。足元ふらついて転けても大変だ。
でも兄貴服は着ような。兄さんと身長同じくらいなんだから兄さんに服借りるなりしてさ。春が近づいてきているとは言えまだ寒いんだから風邪引くぞ。これだから裸族は。
父さん家かぁ…、兄貴と住むようになってから行くのは今日が初めてだな。2人が忙しくて、時々家事をしに家政婦が来るくらいでいつも1人だったあの無駄に大きいって思ってた家。でも、今ならその家でも温かみを感じるかもしれない。俺が覚えてない、母様がまだいたあの頃に感じていたものと同じくらいのものを。
10分弱走らせ着いた久しぶりの、もう1つの家。車から出て、視界一杯に広がるその家はやはり大きかったが、こんなに小さく感じるものだっただろうか。昔は心臓に重くのし掛かるほどに、それはもう行く手を阻みどうやっても壊せなさそうな、空を突き抜ける高い壁のような存在だったのに。こうしていざ逃げていたものから向き合うと"普通"の家にしか見えない。
「親父鍵~」
「お前も持っていたでしょう」
「出すのめんどいから早く」
前を歩く3人。兄貴も久しぶりに来たはずなのに、まるでここにずっといたかのようにその足取りは軽かった。
3人の背中を見ながら、1歩、また1歩と玄関へ近づいていく。前はあれだけこの瞬間が憂鬱だったのに、今では3人がいる場所へ行こうと自然と足が前へと運ばれる。
「ハニーちゃんおかえり」
「おかえり昴流」
「おかえりなさい」
開けられたドアの中へ。境界線を踏み越えるといつも薄暗かった玄関は温かい光で照らされていた。
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