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「…ってのがまぁ、代表としての言葉で」
「え」
「俺個人としては糞どうでも良いんっすよね~。恨んでんのとか、そう言うの。だって逆恨みだろそれって。豚箱突っ込まれた奴らは完全に自業自得だし。つーか"前任"も頭抱えてたし破門にする手間省けてラッキーって感じだよな」
「…え゛、」
そんでまたまた声音が柔らかくなり、朝生田はへらへら〜っと笑いだす。そんでもって自分こそが『赤』の掟だとか、そんなことを言っていた矢先に自分の"全て"である筈の思想を否定した。
流石にそれは幾らなんでも無理があるだろう。"他人の"全てであるならまだしも、こいつが否定したのは「"俺の"全て」と仮にも言ったものだ。そんなものを、こんなにも軽く否定できるだろうか。こいつの言うことは矛盾していた。
ーでも、全部が全部嘘じゃねぇような気もするんだよな……ー
仲間が抱く俺らへの恨みは逆恨みだと朝生田は評価した。警察に捕まったのは自業自得なのだと。前任……恐らくそれは『赤』の、朝生田の前のボスのことなんだろうが、その前ボスが頭を抱えていたってことは、そいつは族の中でも問題視されていたんだろうか。
"頭"って立場から見たら俺らを恨むほどのことではないってこと?その、捕まった奴らと親しかった奴はそうもいかなかったんだろうが。
けれども問題はそこじゃあなくて、どちらがこいつの『本音』なのかっていうことだ。正直恨まれる理由が1つ減ろうが増えようがそこまで関係ない。前者が本音ならばこれは俺を油断させるための嘘だろうし、逆に後者が本音ならこいつは「全て」と評した『赤』をそこまで思っていないことになる。
「……なぁ、お前結局どっちなんだよ」
ここはきちんと白黒はっきりさせないといけないところだ。だから俺は朝生田にそうにそう問うた。「嘘なんだろ?」と後者の主張を怪しむ言葉をかけなかったのは、誤魔化されない為にだ。
「どっち……って言われてもなぁ。先俺は『"代表"としては』って言っただろ?頭である以上色々と因縁がある"らしい"あんたらを恨まないといけない。でもただの"朝生田茜"としてはそこまで拘ってねぇって言うか~?だって恨んで豚箱行きってやり返せたとしても意味なくないっすか?」
要約すると恨むにしても「程々にしろよ」ってことか。確かにそりゃあそうだ。俺らに復讐したにしてもそこでお縄についたら自分の人生パーになる訳で、こいつらにとってプラマイゼロどころかマイナスだろう。その覚悟があるならさておいて。そんでそれは『赤』が警察に目をつけられるきっかけになるかもしれない。団員一人で考えてマイナスなら『赤"全体"』で考えたらもっと不利益を被ることだろう。
「正直な話俺はあんたらへの恨みの数々は聞いただけで"見て"はないんでいまいちピンとこねぇっつーかな…」
ーあー、大体分かってきたー
頬を掻いて苦笑する朝生田を見て、朝生田の言うことがやっと理解できてきた。同時に本当にどちらも"本音"であったのだとも。
『前任』が頭を抱えていたのは則ち『赤』に不利益をもらたしかねない奴のこと。もっと言えば総合的に損になっても構わない奴ら。そんでもって朝生田は、俺らに"固執しすぎてる"あまりそうである奴らのことを快く思っていないんだと思う。やり過ぎだと感じているところがあるからこそ「逆恨み」だと言ったのだろう。
そんで、「どうでもいい」「拘ってねぇ」と言ったのは、一切興味がないという意味ではなく、『赤』の思想を否定した訳でもなく。『朝生田茜』って人間"個人"は俺に恨むようなことをされた訳ではないから、知らないことで俺らをそこまで恨めないってことか。
けれどこいつは"頭"だから仲間の総意として俺らを恨む。……うーん、大人数纏めるのも大変だな。俺愁と琉生としか班行動しねぇから想像しにくいけど、こいつも苦労していることだけは分かった。
「だから、ある意味では両方俺の本心っすよ」
最終的な俺の問いへの答えは俺の推測と合っていたから、細かいことは違っていても的外れではないだろう。
「そこまで俺嘘ついてきた記憶はねぇんだけど、俺のどの言葉を信じんのかはあんたらの自由。全てを信じてもらいてぇなら、警戒させるようなことは避けてるよ」
こいつが今まで言っていたことどこまでが本当でどこまでが嘘なのかは俺には分かりかねる。朝生田の言うことうんうんと疑いもせず頷いてもらうなら、こんな風に疑われるようなことしないとこいつは言うが、その言い分も良く分かる。自分の主張を信じてもらいたいのにそれを話す前に警戒させるようなことをする奴はまずいない。
てことは、警戒することは予想の範囲内…否、こいつはそもそも警戒させて、疑心暗鬼にさせることが、狙いだった?その理由は分からないけど、こいつの言い方的に意図してやったようにも聞こえる。
「でもさ、前も言ったけどあんたらに危害加える気はマジでないんすよ。これだけは、信じて欲しい。他のことは疑っても構わねぇから」
「…何だそれ」
「俺にも、事情があってさ」
「何を信じるのも自由」と言った朝生田が、それだけは強く俺に頼んできた。俺が深く訳を聞こうとすれば朝生田は苦笑いする。頼みはするが訳は聞くなってことか。
そう言えば、前にも言っていたな。事情があって詳しくは言えない、って。俺らが朝生田にある程度警戒するよう仕向けた理由はもしかして、そこにあるのだろうか。…って聞いてもこいつはその事情とやらを教えてはくれないんだろうなぁ。
朝生田が絶対的に求めている、自身は無害であると言う信頼。その事情とやらは、それを得なければ駄目なことなんだろうか。警戒しつつも、信じろ…って中々に難しい要求だよなぁ。愁だったら「どっちかはっきりしろよ」とか言いそうだし、俺もそれには同意見だ。
「…まぁ、頭にいれとく、くらいなら」
本当にただ、それだけなら。流石にこの状況下で完全にこいつの言うこと信じることなんて不可能だけど、こいつは俺や愁に危害加える気はないって言ってたな~程度の認識ならしてもいい。これ以上の妥協は不可能だ。
そう言った意味でそう告げると、朝生田は「それで十分」だと俺の譲歩に承諾した。
「で。その上での、要求なんすけど」
「まだあんの」
まるで本題だとでも言わんばかりにこいつは、さらりと2つ目の要求を切り出した。先の要求も中々なものだったのに、まだあんのかこいつは。
「その1」
「…は?否、え」
まぁ先のより面倒なのはでないだろうと思って内容を聞いていると、朝生田が数字を唱えたので耳を疑った。何だよ、その言い方。複数個?複数個あんの??マジかよあり得ねぇ。
聞いてやる、聞いてやりはするけど。俺は頷ける自信がなくなってきたぞ。先よりも面倒だったら俺は首を横に振ってやるぞ。
「俺に暫く近づくな」
「…あ?」
「今日みたいに、俺に視線を向けることも禁止」
複数一気に何を俺に求めるんだと思えば何だこれ。意味分からないのが来た。否、こんくらないなら?出来ると思うけど。正直先のよりも難易度的には落ちたよな。こう言うのが何個もあんのか?……一体幾つ?出来る出来ないじゃあなくて覚えとけるか不安になってきた。
「その2。赤を見つけたら直ぐに距離を置くこと」
これは、うん。言いたいことは分かるし先と同じでそう難しくはない。自分は危害加える気はないけど他の奴は分からないから極力避けてくれってことだろ?そんなの言われなくてもする。
「その3。1人でなるべく出歩かない。バイトも行ってんならいかねぇことを勧める」
ちょっと難易度上がった。前者はもうすでに気を付けてはいるけど、後者は難しいなぁ。けど、良いよな?遅くなったら優さんが送ってくれたりしてるし。
「その4」
「まだあんのかよ」
想像以上にこいつの要求するものは多く、思わず突っ込んでしまった。『その4』って。俺は一体どれだけの要求を呑めば良いんだ。
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