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「もし、あいつらに目ぇつけられたら闘わずに、"逃げろ"。あんたが強い弱いに限らず絶対ぇ喧嘩はすんな」
「自衛も?」
「その程度なら良いっすけど、兎に角。喧嘩に発展させるな。これが一番重要だからな、狂ちゃん」
「重要だ」と4つめの要求は今までと比べかなり強調して言われた。
喧嘩に発展しない程度の、逃げる隙を作るためだけの自衛。人数が多ければその隙すら作るのは難しいかもしれないが、けどまぁ…、つまりはその隙を頑張って作ってぴゅんって走って逃げろってことだろ?…言葉にしたら簡単そうだけど実際、喧嘩するよりも難しいと思うんだよな、それ。
「頼むな。悪魔さんにもそう言っといて」
「ん…」
でも取り敢えず頑張ってみるとだけ伝えると、朝生田がふっと微笑んで俺の頭をぽふぽふと撫でてきた。ううん…、皆によく撫でられるけど年下にされんのは複雑だ。しかもこいつ俺よりも背が高いからなぁ…。何かムカついてきたぞ。身長自慢かお前。
「…ああ、そう。狂ちゃん」
「む…?」
「椿先生のことっすけど」
朝生田から出た名前に一瞬思考が停止した。誰だっけ。ツバキセンセイ、つばき、椿…あ、あーー涼のことか。
そうだった。色んなことが一気にあったせいで忘れてたけど、こいつに付き合ってんのバレたんだった。どうしよう。どうしたら。口止め?口止めしないと駄目??あれでも口止めってどうするもんだっけ。お金渡す…のは嫌だなぁ。愁に聞いとけば良かった。
「あの人にも、一応気を付けるよう言っといてくれません?流石にそこまで火の粉が飛ぶことはないと思うけど」
「え、…あ、うん」
「宜しくな」
…って、朝生田に脅されるなりなんなりされるんだろうと身構えたのだが、朝生田からは予想していなかった言葉が発せられた。忘れていた要求5個…否6個目?
こいつの仲間が来て中断された涼の話にまた戻ったもんだから、俺はてっきり俺が不利になるようなこと言ってくるんだとばかり思っていたのに。実際にはただ涼を心配しているだけ。
「…何も、言わねぇの」
「?何が?」
「俺と、つば…涼、の……」
「…?嗚呼…関係っすか?」
こっちから話題に触れる必要もなかったけどこいつが黙っといてくれるかは分からないから、一応確認。それに朝生田は笑顔で一言。
「嗚呼、それ。別にどうでも良いんで口外はしないっすよ」
「え、あ…そう、なんだ……??」
意外にもあっさりとそう言うもんだから反応が遅れてしまった。
だって、威圧的に関係を問い詰められたのに、「どうでも良い」だぞ?あのときの状況から考えたら、そんな答え出るなんて予想できる奴いるだろうか。
「とりあえずあのイケメン先生との接点確認しときたかっただけなんで。俺を警戒してるあんたはあんくらいしねぇと喋ってくれなさそうだったし~?」
「…それ、だけ?」
「?はい」
拍子抜けだ。俺の本音を聞き出すためだけに、あんな態度を取っていたなんて。そんな風に問わなくても普通に聞いてくれたら答えていたかもしれないのに。……否、それはないな。朝生田が言うように、警戒してる中で涼との関係をただ問われていてもどうとも答えてなかったと思う。まぁまずなんでそんなこと聞くのか逆に質問するよな。
「んじゃあ、ばいばい狂ちゃ~ん。俺が言ったこと守ってな」
「ぁ…、うん。多分」
「多分って」
涼とか愁に相談してどういう返答が来るか分からないから一応朝生田の要求を呑めるか分からないということは伝えておいた。朝生田はそれに苦笑して。「頼むから宜しくな」って俺の頭をがしがしと撫でて念を押してきた。
その返事を言うよりも前に、朝生田の手は俺から離れていき、特徴的な赤色が揺れ、朝生田の背が見えるようになる。
後ろ姿を見せ、軽く俺に手を振る朝生田は今も笑顔なのか、それとも無表情なのか、はたまたそれ以外の表情をしているのかは俺には分からないけれど、今日ばかりは何故か。こいつのその姿が孤独の道を歩いているような、そんな寂しいものに見えた。
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