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「けどなァ…お前は確かに"強ェ"けど、それが"弱味"でもあるんだぜ?」
「は?」
「クク…、短気は損気…ってなァ?」
「っ…、」
男の拳が急に襲いかかってきて、それを右に受け流す。そっからは向こうのペース。多分こいつがこの中で一番強いしいつ武器を使われるか分からないので、それを警戒して中々攻撃を仕掛けることができない。流石に、そこまで周りが見えてない訳じゃあ、ない。
俺の『弱点』。それがハッタリなのかは置いといて、こいつがここまで余裕のはやっぱり、勝つ見込みが十分にあるからだろう。仲間が全員使えなくなってもその余裕があるってことは、こいつらは俺の体力削るための捨て駒だったのだろうか。
「ッチ…」
拳を掴んでしまえばまだ反撃の余地はありそうだけれど、そんな余裕向こうが与えてくれるわけもない。避けてばっかで中々攻撃に転じることができず、苛つきがますます募っていく。
こんなにも手惑うのは、こいつが強いだけじゃなくてこいつの動きが俺のスタイルには全く合わないのもあると思う。過去にこいつは俺と会ったことがあると言うようなことを言っていたけれど、ここまで苦戦する奴なら記憶にあっても良い。
ないんだから以前喧嘩した後に、俺に対抗する型を身に付けたのか。そこは俺の知ったところではないけれど、やりづらいってだけでこいつ1人なら悪くて相討ち、負ける可能性は低いだろう。一番の強敵である武器を避けてしまえば後はどうにでもなる。ーーただ1人ならの話で、もし今伸びてるやつが起き上がったら不利になるだろうな。だから、早くこいつも倒したいんだけど。
反撃の隙を狙いつつ、避け続けていると、徐々に相手の拳の威力が落ちてきたような気がする。長い間攻防を続けているせいで体力が消耗されたのだろうか。俺はまだまだ体力残ってるし、もうちょっとだけ守りに集中していたら攻撃のチャンスは回ってくる筈だ。その一瞬を突いたらこっちのもんだ。
「っ、くは…やっぱ、"キレた"お前はそう来るよな」
段々と動きも鈍くなってきて、これなら一発カウンター喰らってもそこまでのダメージにならないだろうと判断して、男の拳を腰を落として避け、左フック。
俺のそれにまるで予期してたかのようにそいつは笑う。けれどかと言って俺に何かするわけでもなく、拳が顔にめり込んだ。その手応えは、十分にあった。けれど、手応えを感じたとほぼ同時に。
ーバチンー
「あ゛…っ?!」
ここに来る前何度か聞いた嫌な音がまた耳を震わし、足に激痛が走った。下を見ると伸びていた筈の奴が、黒い物体を握っていて。
前よりも痛みはなかったけれど、俺の全体重を支えていた足に力が入らなくなってしまうと、立つことすら困難になりその場に手をついて体が崩れ落ちていく。その手もがくがくと震えて、バランスを保つのは難しい。
完全に油断していた。周りが見えているつもりで実際は視野が狭くなっていた。目の前の相手しか見ていなかった。こんなの、冷静でいれば避けれていた筈で。嗚呼、糞。完全に俺の落ち度だ。
ずぅっとこいつが余裕だった理由は、"これ"か。自分に注意を引き付けて、俺が防御から攻撃に転じるところを狙っていたのか。俺がこいつを"キレさせた"のは、計画の成功率を上げる、為。
ー嵌められたー
スタンがンさえなければ、向こうが武器持ちってチート使ってなければ…なんて今となってはただの負け惜しみでしかない。煽られて、冷静に欠いた俺が悪いことはちゃんと、分かっている。
ーーでも、でも。何だこの、違和感。
こいつらの策略に嵌まるまでそれに気づけなかった自身の愚かさが悔しい。けれど同時に"恐怖"を覚えた。
これは一体、何に対して?最初はどうしてこんな感情抱いてしまうのか分からなかったけど、目の前にいる、口内が切れたのか口元に血が伝うそいつを見て理解した。俺が恐怖したのは、"計画"そのものにだったんだと。だって、俺が攻撃を仕掛けて無防備になったところを狙うなら、その"拳を向けられたやつ"はどうなる?自分がやられる前提の計画。捨て駒は寧ろ自分自身。何でそんなこと出来るのか俺には理解できない。
「やっとわんちゃん確保~?腕鈍ってくれてて助かったぜ?そうじゃなけりゃあ負けてたかもなァ」
「ぁ、っぅ、」
「クク…よく見たら可愛い面してんのなァお前」
俺の前にしゃがんだそいつに、ぐい、と髪を引っ張られる。クツクツと笑いながら言うそれは、まるで人を品定めしているようで居心地のいいものではない。
「ンー…また動けるようになっても困るしな…。なァ、なんか持ってきてくんねェ?」
「柔らかい奴?」
「ンー…そこら辺は任せるわ。まァ、痛くねェ方が良いだろうが」
「はいよ」
彼らの中では「何か」で通じるらしいそれを頼まれると先まで伸びていた筈の奴が何事もなかったかのように立ち上がって部屋から出ていった。よく見たら、もう倒れてるやつはいなくて。
嗚呼、なるほど。やられたのは全員"振り"だったのかと気づいてももう遅い。昔の自分ならこんなこと、すぐに見抜けただろうに。怒りからそこまで気が回っていなかったのもあるんだろうけど、感覚的な衰えもある気がした。
「リーダー、こんなんしかなかったわ」
「良いんじゃねェ?」
数分して戻ってきた奴の手にはロープ。太くてちょっと柔らかそうなやつ。それを一体何に使うのか見当がつかないが、これからされることを考えると良いことには使われないだろう。
「んじゃア移動しよっかわんちゃん?あーちゃん。そいつお願い」
「……あー、うん」
「っぁ……?ゃ、?」
「あーちゃん」と呼ばれたキノコヘアの奴が、リーダー格からの指示で腕を捕んできた。そしてずるずると引っ張られる。抵抗しようにも体に力が入らずされるがまま引きずられる。が、コンクリートむき出しの床に擦れんのは痛いし、後そんなに引っ張られると肩も痛い。
「あぅ、ぃた……」
思わず痛みを口に出してしまうと、「あーちゃん」から舌打ちが聞こえる。そしてぱっと腕を離され、気がついた時には体が宙に浮いていた。
「ぁ、え……?なに、し……っだ、」
なぜ態々俺の運び方を変えたのか分からなくて混乱するが、それが解決する前に、俺の体を支えていた手が離れてぼふんと尻から落下する。俺を抱き上げて乱暴にソファに捨てたそいつの顔を真下から見ることができたのだけれど、影がかかって表情は良く見えなかった。
ー何でー
けど、唯一見えたそいつの唇は固く閉ざされていた。
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