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後半戦。試合が始まると吉柳は別人だった。
俺に怯えず、かと言ってお喋りになる訳でも無く、バスケだけに集中して動いていた。
俺だけじゃなくて、同じクラスの奴も”味方”って判断してるだけで特にそいつが誰だ、とか気にしてない。
否、誰かは分かっているんだろうが…どう言えば良いんだろう。
『信頼』…そう、仲間として信頼して動いてるって言うか。
その目に俺は『不良』とか、『怖い奴』とか『最恐って呼ばれてる奴』とか。そういう風に映ってなくて、『味方』とだけ認識している曇りのない、揺るぎない目。
だからだろうか。こいつのフォローを入れる分には全く嫌な気はしなくて、適当に敵のボールを外に出しておこうとかも考えていたけど、吉柳に合わせて動き、パスを回してた。
「まじで助かった!!!」
「…離せ」
結果は59‐4。俺のクラスの圧勝。
そんで、終わったら吉柳は俺に礼を言って手を握ってきた。
今までは喋り始めは怯えてた癖に、それもなくハキハキと喋って。
…何なんだこいつは。急な態度の変化に目をパチクリ。
「お前凄ぇ怖い奴って聞いてたからさー…いつも話し掛け辛かったんだけどそうでもないな!噂みたいに怒りっぽくねぇし、助けてくれるし?…寧ろ良い奴?」
「…はぁ?」
この短時間でどうすればこんなに印象が変われるんだろうか。
あれか?助っ人に入ったからか?否、それだけでこうなるか?
分からん。こいつの思考回路がさっぱり分からねぇ。
最初に話し掛けられた時もポジティブな奴だなぁとは思ったけど、こいつはあれか、脳味噌で全部ポジティブな方向に変換されるのか?
「お前のパスが優しくて、凄ぇ取りやすかったんだよ。俺スポーツはそいつの本質が出ると思ってるから。…だって気性が荒い奴がパス回せば、雑なパスになる筈だろ?…だからパスが優しかったお前は良い奴」
何だその個性的な論は。スポーツ中心のポジティブ野郎かよ。
嗚呼、分かった。こいつ馬鹿だ。
スポーツ馬鹿って言う馬鹿だ。それ以外にこいつを例える言葉が思いつかない。
「ほんっと助かった!サンキュ。…狼城!」
「っぅ…いってぇ」
「えっ、ご、ごめん!」
また、背を叩かれた。これで何回目だ。3回目か。
けれど、今回のは1回目と2回目とは違った。
した後に、俺の機嫌取りをしようとはしない。そこに怯えなんてない、純粋に申し訳ないと思っている瞳。
一々オーバーリアクションなのは変わらないが、まぁ、それがこいつなんだろう。
元気が良いことで。
「あ、後お前普通に上手い。マジで上手い。だから是非バスケ部に…」
「は?何で」
そして今度は部活勧誘と来たものだ。
曰く、こいつはバスケ部ならしい。言われて納得。あんなプレイして別の部活ならそれはそれで吃驚だ。
…まぁ、こいつが何の部活に入っていようと、俺がどの球技が得意であろうと、勧誘の答えは「ノー」なのだが。
部活とか面倒だ。やる意味がない。
「魔咲も一緒で良いから!楽しいぞバスケ…!」
「否、何でそうなる」
断ってもお願いしますお願いしますと吉柳が手を握りながら頭を下げてくる。
…何か、怖がられなくなったのは良いが、これもこれで面倒臭ぇ。
うざいを通り越しててどう対応すれば良いのか分からない。
きっとこいつはバスケ一筋になり過ぎて頭のねじが1本は外れてしまっているんだと思う。
「…あれぇ、ルウちゃんナンパされてんの?」
「ある意味な」
そこに来てくれた愁。助けてくれ。俺も良く分からない。
そんな視線を愁に送っていると気持ちが通じたのか、愁が吉柳に話し掛けた。
「ルウちゃんを何ナンパしてんの?お前」
「ナンパじゃない部活勧誘だ!!どうだ?魔咲もバスケ部に…」
そう言い、急に自分の手を握ってきた吉柳に愁は驚くと、やりにくそうな表情を浮かべた。
「俺入るつもりなんて無いんだけどー…」
「狼城と一緒に…どうだ?!」
「どうって言われてもぉ…」
自分が何故、部活勧誘されたのかも疑問だがその前にこいつこんなキャラだっけか。
そんな愁の心境が表情に現れていて、俺はそれに「馬鹿なんだよ」と答えてやった。
俺等と考え方のベクトルが逆にも近く、こいつの考えてることは全部は予想できないが、恐らく、恐らくだ。
俺が思うに愁も怖がらなくなったのは、俺が良い奴って判断して『じゃあ愁はどうなるだろう?俺といるんだからまぁ、良い奴だよな。じゃないと一緒にいようとは思わないだろう』…って流れで愁も怖がらなくなった…のではないだろうか。
愁も俺の馬鹿の一言で「そんな感じするもんねぇ」と何となくこうなった経緯が予想できたのか納得の色を見せた。
「「馬鹿すぎてやり辛ぇな」」
粘り強く勧誘してくる吉柳に俺等が共通して思ったことはそれだった。
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