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名前の知らないその人と知り合って半年以上の月日が流れたある日のことだ。
店で寝落ちしてしまい、夜の3時位に目が覚めた俺をその人が危ないからと送ってくれたことがあった。
本当は、帰る気なんて無くてそこら辺をぶらついて夜を明かすつもりでいたんだがそう言ったら怒られた。
酒を飲んでるんだからその人は歩きに決まってて、家が逆方向だったらと申し訳なく思いながらも家まで送ってもらった。
それが、俺たちの関係を全く別のものにするきっかけになるとはまだこの時点ではお互い知らないでいた。
「その男は俺の家を見ると、表情を曇らせた」
隣の家より一回り位大きく、けれど生活感のあまり感じられない家。
その日は親も、兄も泊りがけなのか駐車場には車は1台もなかった。
そんな大きさの割には何も詰まっていない家を指さしながら「本当にここなのか」って聞かれた。
それは、大きさに驚いての言葉じゃないって直ぐに分かった。
だってその人の正面には家の表札があったから。
だから俺には「本当にあの桜木なのか」って聞かれてるように聞こえた。
それに俺は適当に返して、その日はそれで別れた。
男は、それを機に店に顔を見せることがなくなった。
「"桜木"の息子がこんな『落ちこぼれ』だなんて。そう思われた程度にしかその時の俺は思っていなかった」
あの質問をされた時から、それは予想出来ていた。
嗚呼、この人も皆と同じなのかもなって。
桜木の人間ってだけで判断して、俺を蔑んで。そう言う人達と同じだったんだろうなって。
"居場所"になってあげるって言った癖に。
名前を互いに教えてない関係、いつ切れてもおかしくなかった。
頭では分かっていても、いつも優しく微笑んでくれたその人に裏切られたような気がして、悲しくて。また寒くなった。
少なからず、心を開いていたんだと思う。
暫くは荒れて、毎日、毎日昼は愁に頼んでセックスして夜は喧嘩に明け暮れた。
優さんも、愁も程々にしろと俺に言ってきたけれど、俺の力じゃあ自分を止めれなかった。
そうして過ごし、大分落ち着きが見え始めたあの人が来なくなってから1か月後。
思ってもいなかった方向へと事態は向かっていく。
1ヵ月ぶりにその人は店のベルを鳴らして、真っ先に俺の隣の席に座った。
「久し振りにやって来たその人は変わらぬ優しい表情を俺に向けてくれた」
「元気にしてた?」から始まって、「ちょっと最近忙しくてね」と最近の事を話して来れなかったことを謝ってきた。優さんから聞いたらしい、俺が荒れていたことも自分のせいだよなと謝られた。
「逃げたみたいになってごめん」だとか、「スグルに何か伝言頼んどくべきだったな」とか。
永遠と続く俺への謝罪。傷だらけの俺の腕と顔を相変わらずな不器用さで手当てしながら、言われるそれは30分くらい続いた。
全部、全部彼の口から出てくるのは俺を心配してくれていたが故の言葉で、その人は俺を避けてた訳じゃなかった。
じゃあ何で。何であの時あんな表情をしたの?
それが分かったら自然と生まれた疑問を俺はその人に投げ掛けた。
「そうすれば、1度困ったように笑って俺に名刺を見せてくれた。『狼城 流星』…そう書かれたその人の名刺」
今まで名前を教えてこなかったし、俺に来ても来なかったのにいきなりフルネームで来たもんだ。
どう言った意味があって教えてきたのか見当もつかず、名刺とその人の顔を交互に見て首を傾げた。
状況を飲み込めれていない俺に「こう言われても戸惑うだけだと思うけど」ってその人は前置きを置いてから、俺にそれを告げた。
「『俺さ、本当はお前の兄貴なんだよ』…ってさ」
最初は何の冗談だと思った。
だって、そうだろう。今まで名前を知らなかった人間に血が繋がってるとか言われても実感なんて持てる訳ない。
だけど、その人の目は真剣なものそのもので。
曰、その人自身も俺を送りに行くまでは気付いていなかったらしい。
でも、自分が急に名乗り出た所で俺を混乱させちまうだけだから本当は秘密にしとくつもりだったようで。そうしなかったのは、俺が放っておけなかったみたいだ。
この人は、例え冗談でもこういうことを言う人では無い。それでも言ったってことは、きっと本当のことなんだろう。それを良い証拠に名前なんて教えてないのに名前を読みだけじゃなくて漢字も当ててきた。
『昴流』…って聞いただけじゃあ書けないこの名前を。まぁ、何か若干『昴』の方の漢字が違ったが。
それはそこまで重要ではなく、『流』が名前に入ってるってこと。これは優さんも知らないから確認を取れる術はない。だから、俺はその人の言葉を信じることにした。この人が俺がこうならないようにって言われてきた兄なんだって。
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