アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
、
-
「…なあ、もう帰って良いか」
ふと時計を見たら5時を回ってて、そろそろ帰らねぇとやべぇから俺の胸ぐらを掴んでる久世にそう言った。
俺はバイトがあるから早く帰りたいだけなんだが、言い方が悪かったのかまた久世は怒鳴り出した。
「その人を見下したような態度!!目!!苛つくんだよ!!」
これ、文化祭の時にも同じことを言われたっけか。
だけど俺はこいつを見下したつもりは無い。
ただ、もう話が終わったのなら帰って良いかと聞いただけで。俺にとってはこれが"普通"で、そう言われても直し様がないって言うか。
…正直、そう言われても困る部分がある。
「お前が人を見下せる立場にいると思ってんの?!」
俺の考え過ぎかもしれないがそれに『もうお前は"桜木"じゃないんだから』って意味が込められてるような感じがした。
…否、違う。"もう"じゃない。
"最初"からだ。最初から俺は"桜木"ではなかった。
だから俺は認めてもらいたくて頑張った。
…嗚呼、また胸が苦しくなった。
言われることには慣れているのにいつまで経ってもこの名前にだけは慣れないな。
「…何でお前みたいな奴があの人と…!!!」
そうやって感情任せに怒鳴ってんのは、思い通りにいかなかったからのただの八つ当たりだ。
段々と体が冷めていくのと胸ぐらを掴む手の力が強まって呼吸が出来なくなっていくのを感じながらも俺はそれを黙って聞いていた。
"心も"どこか冷めてしまっている様で、自分のことなのに自分には関係のないことの様にも聞こえたのだ。
俺をどれだけ貶されようが、どうだって良い。好きなだけ言えば良い。
こんなの、いつも向けらてきた言葉だ。
何でお前が、お前みたいな奴が、落ちこぼれ、面汚し。
どいつもこいつも言うことは同じで、俺がこうなる前も似た様なもんだった。
こいつは桜木だから住む世界が違うだとか、こいつは桜木だから自分達のことなんて眼中にないんだとか。
いつもいつも周りから比べられんのは桜木の名前。
俺がそれから逃げようとしても、この名前は俺を受け入れない癖に逃がしてはくれない。
それが苦しくて、辛くて。
けれど毎日のようにそれを聞かされて、耳を塞ぐことを諦めた。
「…あんたみたいなやつと付き合うとか…っ!あの人もあの人だ…!"見る目がない"!!」
だけど何故かこの言葉だけは聞き流すことが出来なかった。
先まで冷めてたのが噓の様に沸々と何かが湧き上がってきて、頭の中が真っ白になった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
135 / 1113