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「お前がそう言うのならもう俺は謝らない。…だからお前も謝らないで?俺は迷惑だとかそんなの1度も思ったことないから」
「…う、ん…」
「ふふ、良い子」
小さく頷くと涼が抱き締め直してポンポンと背を叩く。
「…昴流、久世にどんなこと言われた?」
「ふえ…?」
「言えないんなら言わなくても良い。けど、言えば昴流も少し楽になるかもなって思ってさ」
「…いー、慣れて、るから」
ぎゅう、と涼の服を握って胸に顔を埋め、ふるふると首を横に振る。
良い。あんなこと言われるの今に始まったことじゃないから。
「…慣れてるって思い込もうとして強がらなくて良いんだよ、昴流。手、震えてる」
「…だって、耳、塞いでも皆同じで、きこえてきちゃ、うから…」
嗚呼、この人も、この人も。皆同じなんだって割り切って、諦めなければ気が狂ってしまいそうで。
名前を言われるのはまだ慣れないけど、そう思えば少しだけ気が楽になった。
誰かに俺自身を見て欲しいとかそんなこと望まなかったら良いんだって、望むから余計に辛いんだって気付いてしまった。
「…そう。…ふふ、じゃあ俺がお前の耳元でずっと好きって言ってあげる。そうしたら聞こえないでしょ?」
「…うそ」
「本当だってば。…昴流、辛いことに慣れたら駄目だよ。無理矢理慣らそうとするのも。お前は自分で思ってる以上に繊細なんだ。周りからの言葉に感化されて自分の否定癖が付いてしまう程にはな」
「…してない」
「してるよ。俺はお前が自分を否定してしまうのは悲しいよ。お前が辛いのなら俺がお前の代わりに耳を塞いであげる。俺が、言ってくれたら辛いことから守ってあげる。…だから絶対慣れたら駄目だよ。約束な。分かった?」
「……ん」
「良い子。絶対だよ」
涼の言葉は俺のことなのに分からないことが多くて、けど涼に辛いって思ったことは隠さずに言って欲しいと言われたことだけは分かって腕の中で頭を揺らした。
「…さて、それじゃあお風呂、入っておいで。その間に出前とか取っとくからすっきりしてご飯食べよう?」
「…うん」
「はい、着替え。タオルは洗面所の棚にあるから」
俺が良く泊まるようになったから俺の下着は涼の家に何枚かあって、その中の1枚と、涼のスエットを渡され、ペタペタと足の裏がフローリングに引っ付く音を鳴らしながら風呂場に向かった。
『久世には俺が優しく怒ってあげたからもう椿に引っ付くことはないと思う。お前にも接触してくることもないと思うけど…、もし何かされたら言えよ?俺がまた優しく怒ってやっから』
シャワーを浴びた後、服を着ている時に愁からメールが来てるのに気が付いて内容を確認したらこれだ。
…その内容だけど、色々と突っ込みたい所がある。
優しくって言うけどお前があいつに優しくなんて考えられねぇよ、とか。
怒るって脅したの間違いじゃねぇのか、とか。
お前がまた脅したら流石に久世が可哀想だ、とか。
突っ込んだら切りがねぇからそんな気持ちをグ、と堪えて『さんきゅ』とだけ返し、携帯をスエットのポケットに突っ込んだ。
「…ーーは元気にしてるよ」
リビングに戻ると丁度涼が誰かと電話をしている所だった。
「だからお前が心配しなくてもー…、あー、出たのか」
「ん」
俺に気付いていない涼の肩をツンツンとつついて出てきたことを知らせる。
それでやっと俺に気が付いた涼が、びしょ濡れの俺の髪に触れた。
「もう、少しは乾かさないと…。最近気温の変化が激しいから風邪引くぞ。拭いてやるからタオル持ってー……こっちの話だ。…そうそう、俺のコイビト。放っておいたら隅で丸くなって泣いちゃいそうな位甘えたの寂しがり屋さんで超可愛いの。…っせぇよ。誰が1日坊主だよ。2ヶ月以上続いてるわ」
言い終わる前に電話の方に戻った涼がアイコンタクトで俺にタオルを持ってくるように言ってくる。
拭かなくても今まで風邪引いてこなかったから大丈夫だと思うけど、電話の内容を聞かれたくないのかなぁと思ってタオルを取りに洗面所に向かった。
「…嗚呼、ったくマジでお前しつこいな。今月で何回目だよそれ。お前がうぜぇくらいに溺愛してるそいつは俺がお前の分も見といてやるって言ってんだろ、"彗"」
涼が聞かれたかったのは内容ではなく"相手の名前"だったのだとこの時の俺が知る筈もなかった。
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