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ー嘘だろ…ー
零と別れて階段を上って、俺の部屋がある2階に行くと、俺の家の前で女が座って待ってた。そりゃあ座ってたら見えねえわ。
…じゃなくて、そうじゃなくて。
まだあれなら1ヶ月も経ってない。2週間くらいだ。まだ怪我だって酷いのは治ってない。
月2で来ることはたまにあったけど、今されたらマジで俺死ぬかも。
そう思うと、無意識にポケットに入ってたナイフに手が伸び、それをポケットの中で握りしめていた。
このナイフは中学生の頃から持ってる愛用品。喧嘩を売られたときに向こうが武器を持ってる時があるから、護衛用に持つようになったもの。
使い道は本来のものと違うけれどもし、殺されそうになったらこれで…。
本当に死にそうになったら、高校卒業するまで耐えるとか言ってられない。
流石に俺だって死にたくない。刑務所へさようならってなっても、死なないだけましだ。
1度、ゴク、と生唾を飲み込んで、決意を固めると俺は女の前に立って、口を開いた。
「金は無い。帰れ」
「は?何よその言い方」
「…俺は疲れてんだよ。毎回言わすなビッチ」
いつもいつも同じやり取り。
金を請求されて、無いと答えて。
買い文句に売り文句。
それで勝手に家の中に入ってきて、満足するまで殴られる、蹴られる。
「あんたさえ居なければ…!」
「ぁぐ…っ、ガ、…っは…っ゛」
こいつの暴言には、暴力には俺に向けてのものと、自分を捨てた男へ向けてのものの両方が込められてる。
最近は、俺に向けてよりも、そいつに向けてのものの方が強くなってきてて、何度鏡の前でため息を吐いたか覚えてない。
こんな顔じゃなければ、少しは違ったんじゃないかって。毎日毎日鏡を見ては自己嫌悪。
まあ、こんなことして顔が変わってくれるわけも無いんだけど。
「…は、ぁ゛…っ、イ゛…ッ」
前のやつがまだ治ってないせいで、いつもより痛くて、意識が朦朧とする。嗚呼、ヤバイ。飛ぶかも、これ。
殺すなら飛ぶ前にやらないと、俺が殺される。相手は女。こんな体でも力じゃ俺の方が上。
あまり力の入らない手を女の方に伸ばし、もう片方の手をナイフのあるポケットに突っ込んだ。
「ボロボロだな魔咲」
ーピコンー
…のとほぼ同時に、そのやけに落ち着いた声と、電子音が部屋に響いて、動きを止め、音がした方に視線を向ける。
「…っは、゛…れい…?」
「ワンコに怒られそ…。もうちょい短い方が良かったかな」
携帯を弄りながら「止めた方が良いんじゃないですか」と前回助けてくれたときみたいに、ババアに話しかける、帰ったはずのその人。
…ていうか、さっきの音は何。
「…何、またあんた?関係ないじゃない」
けど、零の存在の方が、その音よりもここでは目立って、ババアは音のことはなにも言わず、「邪魔をするな」と言いたげな表情をしながら零の方を向いた。
「いや、関係無くはないんですよね、俺はワンコに利用されてる身なんで」
「はあ?」
「ま、俺の可愛い可愛い後輩でもありますし?今回のはやり過ぎましたね。てことで警察呼ばせてもらいました」
「…な…っ?!」
柔らかい口調のままだが、冷たく刺のある声、どこか威圧感すらある声でそう言い放った。
それに驚き、動きが止まるそいつに向かって、零は無表情のまま言葉を続ける。
「サイレン鳴らしたらアンタ逃げると思って『やばくなったら俺がなんとかするんで鳴らさず安全運転で来てくださーい』って感じの事を言ったのが10分くらい前だからそろそろ来る頃だな」
10分前…もっと経ってたと思ったけど、時計を見てみるとその時間はババアに殴られ始めた頃くらいだった。
零は操作していた携帯をポケットにしまって、女に「さて、どうする?」と相変わらずの無表情で尋ねた。
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