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「…なんでよ…」
ポツリ、と今まで黙っていたそいつが震える声でそう呟いた。
「なんで、私が加害者扱いされないといけないのよ…悪いのはこいつで…」
「…それは誰に対しての言葉ですか」
ブツブツと呟くババアに、昴流はため息を吐くと話しかけた。
最近になって聞くことは全くなかった、冷たい声。一瞬昴流が中学の頃に戻ってしまったんじゃないかって思ってしまう位のものだった。
「貴女、ちゃんと愁だけを見てますか。今貴女は"誰"を見ているんですか」
「そん、なの…」
「…確かに、顔は貴女を捨てた人と瓜二つなのかもしれません。けどそれはそっくりなだけで"愁"じゃない。…今の貴女はその区別が出来ていますか」
優しい口調なのに氷のように冷たくて、抑揚の全くない声。
そして、光のない真っ黒な目の威圧感。
その目と声で、昴流が追い詰めていく。
「…愁をその人の"代わり"にしないでください。愁はその人と全然似ていない。愁は誰よりも優しい、人を簡単に捨てるような奴じゃない」
今日1番の凍るような冷たい声。
怒りも込められてるように聞こえたそれにこんな状況でも嬉しくて、泣きそうになった。
俺のことで、滅多に怒ることがない昴流が怒ってくれている。俺と、俺と瓜二つな人が似ていないとはっきりと言ってくれる。
"俺"を見てくれた初めての人。
俺はお前を"落とす"為に近づいて何度もお前を犯したのに、恨んでもおかしくないのに、恨むどころか俺のことを好きでいてくれて「誰よりも優しい」と言ってくれる。
お前のその言葉の一つ一つに俺は救われてる。
「…もう1度聞きます貴女はーー…」
「五月蝿い!!」
女を見据えたまま1度間をあけて、再び口を動かし始めたその時、そいつは昴流に怒鳴り散らし、昴流に掴みかかった。
「部外者が知ったような口聞いてるんじゃないわよ!こいつのせいで私は人生を狂わされたのよ!こいつさえ居なければ…!!」
「…だから、それは誰に対してですか。愁ですか?貴女を捨てた人ですか?それとも両方ですか?」
「五月蝿い!五月蝿い五月蝿い!!」
「っぁぐ…」
「昴流!」
激情し、昴流の首を両手で掴み、力を込める。助けにいこうと立ち上がろうとしたのに体中が痛くて立ち上がることすらできない。情けない。こんなときくらい動いてみせろよ俺。
「お前は怪我人、おとなしくする」
「れい…?」
「大丈夫だ」
「大丈夫って、何が…っ」
俺が意地で立ち上がろうとしていると、零に止められた。かといって零が昴流を助けにいく気配はない。何で、何が大丈夫なんだよ。昴流このままじゃ本当に…。
「あいつ、抵抗してねえだろ。無駄な所に力いれずに自分で死なない位置にずらしてる。…ワンコ首絞められんの慣れてんの?」
「え…?」
「…ま、それに"来た"から」
ー来たって何がー
そう言葉にするよりも前にバタバタと数人の足音が段々と近づいてきて、幸仁さんと吏さんが「警察です。動かないでください」と先頭に立ってババアに向かってそう言った。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「え、あ…無理です」
そっからはもうビデオの早送りみたいだった。
俺を守るように俺の前に立つ数名の警察官の1人に聞かれ、驚いたが正直に答えて。
他の警察官は昴流の方に行って、ババアを昴流から引き剥がして取り押さえる。
それで、抵抗するそいつを2、3人がかりで連れ出して。
そして一瞬にして部屋には静寂が訪れた。
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