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数年前、人通りから少し外れた某所。
廃れた雰囲気のそことは不釣り合いなくらいの大声が響き渡る。
「ファック!!」
「くたばりやがれ…っ!」
「ぐ、ァぁあ゛…っ?!」
…大声と言っても暴言や、悲鳴であるが。
それらの声の中心には、厚着で大量のピアスをつけた少年。
少年の2つ名は"黒の狂狼"。誰が名付けたのかは不明だが、狂人のごとく人をなぶり倒していく様から付けられた。
だが、実際は違う。
確かにそれもあるのだが、彼が狂っているのは喧嘩の様ではなく"彼自身"。
「…くは…っ」
少年は、笑っていた。
ここにいる誰よりも深傷を負う少年は誰よりもこの状況を楽しむかのように笑っていた。
殴られ、蹴られてもその口元からは笑みは消えず、ボロボロな体で敵に突っ込む。
殴って、蹴って。狼のごとく身軽に体を動かし、相手に噛みつく。その勢いは衰えることを知らず、痛みを原動力としているとすら思えもする。
そんな彼を皆"狂っている"と言い、そして恐れた。
「…足りねェ、足りねぇんだよ」
いつしか立っているのは狼ただ一匹。
少年はぐるり、と辺りを見渡してそれを確認すると舌打ち混じりに「足りない」と何度も繰り返し、足元に倒れるそれらを蹴った。
「立てよ」
「がっ、は…っ゛」
「俺はまだ満足してねぇんだよ」
ガリガリと、充血した首元を掻きながら、それらを蹴る。
だが、いくら待っても立つことのない彼らにまた舌打ちし、目の前にした少年の腹を思いっきり蹴って少年はその場から立ち去った。
少年の首には赤い滴が伝っていた。
少年にとって喧嘩とは、"痛み"とは酸素のようなものだった。
自身が生きるのに必要不可欠な、そんな存在であった。
…否、"生きていると確める"為の手段と言った方が良かったかもしれない。
まあ、どっちにしろ、意味にほとんど変わりはない。
痛みを求め、片っ端から獲物を食らっていく。己が破滅する道へ進んでいると言うことを気にもせず。
これが彼…狼城昴流の狼だった頃の話である。
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