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結局家に帰ったのは9時近く。
鍵を開けて中に入ると奥の部屋の明かりがついていて、それが同居人が帰宅していることを知らせてくれる。
奥へ行くにつれ徐々にテレビの音が聞こえてきた。
リビングの扉を開けると、そこにはスーツ姿の毛先を少しだけ金色に染めた最愛の人がソファに座ってニュースを見ていた。
「お帰り。遅かったな」
俺に気づいて小さく弧を描く傷跡を残す唇。
その人に後ろから抱き着いて頬擦りをする。
「愁のとこ行ってた」
「愁?」
「嗚呼」
「元気にしてる?あいつ」
「…今日は荒れてたけど」
「心配だなあ…ここに住めば良いのに…」
兄貴は愁のことを知っている。
愁のことを弟のように接しているし、愁も兄貴には心を開いている。
兄貴は何度も愁のことを心配してここに住まないかと愁に言ったらしいがいつも「そこまでして貰うのは悪いですよ」と断られているようだ。
…まあ、そりゃあ遠慮してしまうよな、って話だよな。俺も、同じこと言われたら遠慮してしまうと思う。お金のこともあるし…。
「愁にはまた会ったら聞かねぇとな…。兄には甘えろっつーの…」
そして兄貴はめげない。
兄貴にとって愁は弟は弟でも俺と同じくらいに大切な弟、ならしい。
「ベストだぞベスト!最上級だぞ!」…と、以前どの位大切なのかを語られたのは記憶に新しい。
「それはそうと、学校からプリントとか貰った?」
「…まあ」
毎日兄貴は兄貴が見ないといけないプリントがないか聞いてくる。
…そりゃあまあ、兄貴しか見る人物はいないから当たり前だけど。
そんなやり取りに家族であると実感し、充実感を覚える。
持っていた鞄を開けて手紙が入っている透明なファイルを兄貴に渡す。
それに挟まれていたプリント数枚をファイルから出し兄貴が目を通していく。
…と、朝握り潰してしまってくしゃくしゃになったそのプリントで兄貴の手が止まった。
「参観日…土曜の午前中か…んでその次に保護者会…。確かこの日仕事あった筈なんだが…、昼から出勤すればいけるな」
「…来なくて良いから」
日時を見て、行く気満々な兄貴。まるでピクニック気分だ。
こんなの強制じゃないんだから行く必要ないのに。
それに、昼から仕事に行く気、ってことは無理をさせるって事だろ?
そこまでして、来て欲しいとか思わない。
「馬鹿、お前がそこまで気にすることはねぇよ。…本当に無理そうだったら行こうとか思わねぇから」
「…ん、ぅ」
「ま、本当に行けるからは今んとこ分かんねぇけどな」
兄貴が俺の額に唇を落とし、「行けなかったらごめんな」と申し訳なさそうに言う。
俺が当時欲しかったものを、何も言わなくとも兄貴はくれるんだ。
来れなくても俺はそれだけで十分だ。
「…よし、じゃあこれ担任によろしく」
「…ん」
可愛らしい丸い文字でプリントにペンを走らせる。
名前を記入して印鑑を押して。
書き終わり、切り取り線ではさみで切ったそれをファイルに挟み直した状態で渡され、ファイルを鞄に突っ込んだ。
「お洒落しないといけないわあ…お兄ちゃん張り切っちゃう」
「…そんなキャラじゃねぇだろ」
「まあな。つかこの格好にアクセサリーつけたらただのホストだろ俺」
「違いない」
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